シーヤーと叫んでほしい打者

 【4月21日】

 シーッ!ヤーッ!

 ドジャース大谷翔平のホームランを伝えるニュースを見るたびに、地元局の実況アナウンサーがこんなふうに叫んでいるのをよく聞く。

 ご存じ、あれは「See ya」と言っている。「See you」のスラングで「またね」。スタンドに消えるボールに別れを告げるという意味だけど、最近こんな実況が耳についた。

 「Seiya says See ya!」

 ナ・リーグ中地区で首位を走るシカゴ・カブスのSeiyaがダイヤモンドバックス戦で2試合連発弾を放ち、アナウンサーがうまいこと言った。日本時間21日の同戦は雨の中断にも気をそがれ、自身初の3戦連発はならなかったけれど、ホームランを量産し、大谷とその本数を競っているのだ。

 甲子園でカープと3連戦を戦った週末、三塁ベンチを取材していると、そんな誠也の好調ぶりが話題になっていた。元カープの4番打者が海を渡って4年目。今年はタイトル争いに食い込んでほしいところだし、カープの面々も誠也の活躍を心から喜んでいる。

 ルーキー時代から練習を時に近くで眺めれば、彼は求道者然としていた。前日の当欄でカープの3連覇時代に触れたけれど、象徴的だったのは、日本シリーズで大谷翔平擁する日本ハムに2勝4敗で敗れた16年秋のこと。プロ野球の全日程が終了した10月末の寒い夜、マツダスタジアムで選手たちの帰宅を待っていると、主砲だけいつまで経っても姿を見せなかった。

 「まだ、打ってます」

 関係者に聞けば、球場内の打撃マシンを相手に試合後ひたすらバットを振っていたのだ。誠也がエンドレスの様相で打っているものだから、当時3人の打撃コーチも帰宅できず、結局、日付を超えて家路についた記憶がある。

 16年といえば、2戦連続サヨナラアーチを放った誠也の「神ってる」が流行語大賞になった年だけど、ポストシーズンは振るわず、DeNAとのCSファイナルステージで打率・083、日本シリーズで同・222。大一番で窮した元凶を即追求したわけだけど、取材の限り、鈴木誠也という打者には何か誤差が見つかればその修正を「また明日やろう」という発想はない。

 今やる。今すぐ向き合う。

 「僕は新井さんの試合外での行動を見て学んでいる」と、現カープ監督をリスペクトしていたが、誠也もまたその背中を後輩たちに追われた一人だ。

 そういえば、阪神監督の藤川球児が評論家時代の23年に誠也を激励したことを思い出した。左脇腹の張りでWBCを辞退したカブスの後輩へ…。

 「何とか早く回復して今シーズンを健康に…。この前会った時も凄く真摯に野球に向き合っていました。誠也選手、前を向いて!」 

 Twitter(現X)で発信した球児のこの言葉が野球ファンの心を打ったことをよく覚えている。 

 真摯に。前向きに。そんな打者が白球に「See ya!」と叫ぶ姿は、米国でも日本でも尊い。=敬称略=

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