神のお告げがなくとも

 【10月10日】

 マイク・グリーンウェルが亡くなった。62歳だという。「神のお告げ」と言い残し阪神を去ったのが33歳。当時入社2年目の僕はワケも分からず、足を引きずって帰国する彼を見送った。

 もし「神のお告げ」がなければ暗黒期の虎を救えたのだろうか。今、そんなことを思う。あの年の阪神は5位。その翌年から4年連続最下位。助っ人の孤軍奮闘で勝てるほど甘い世界ではない。あの時代を苦々しく取材した者にとっては、生え抜きのオーダーで優勝する猛虎の姿は感無量でしかない。

 というわけで、前回の続きを書く。

 宮崎で3日間フェニックス・リーグを取材して帰ってきた。教育リーグとはいえ、全球団が同一県に集まる年に一度の機会。できるだけ球場を巡って他球団も見させてもらった。暗黒期とまではいかなくとも、転換期の球団にとっては育成の絶好機に違いない。

 2年連続Bクラスのカープを訪ねれば、ファーム打撃コーチの新井良太が寝る間を惜しんで指導に心血を注いでいた。良太によれば、今は専ら「意識付け」を大切にしているという。

 「バッティングも意識を変えればプラスαが出てくると思うんですよ。どういうアプローチでやるのか…」

 良太は言う。

 「『1点を取ること』にフォーカスすれば、例えば、1死一、三塁、例えば、1死二、三塁…。相手の内野が下がっているのに簡単に内野フライを打ってしまうことあるじゃないですか。セカンドゴロ、ショートゴロでも1点が入る状況において、それをやろうとしてできないのか、何も考えずに来た球を打ってやろうという感じでできないのか。塵(ちり)ツモでそういう攻撃をやっていけば、また変わるだろうし…。選手が自発的にそういうことをやり出したら強い。それが今のタイガースじゃないですか。個人がそれぞれやることを分かっているという…」

 その通りだと思う。例えば…。

 リードわずか1点の七回1死一、三塁。フェニックス・リーグの埼玉西武戦(南郷)でそんな状況があった。

 ここで木浪聖也はカウント3-1から引っ張って痛烈な打球を一塁へ飛ばした。これをはじいた西武一塁手の野選を誘い、三塁走者が生還した。

 このときの内野陣形は前進だった。木浪に聞けば「あそこで内野フライは一番ダメだったので…」。カウント3-0から狙っても良かったが「一旦冷静になった」という。「外野へ飛ばすイメージ」で待った球を必打し、貴重な1点を奪ってリードを広げた。

 西武育成左腕の冨士大和に7回4安打、7三振の好投を許したゲームだ。とても育成とは思えない球を投げていただけに各打者が苦労した。CSを見据える阪神にとっては貴重な実戦になったわけだが、僕はこの木浪の「打点1」を特筆したくなった。本人は「打ち損じ」と言うが、意識は1点を取ること、また、あの場面で絶対やっちゃいけないことに強くフォーカスされていた。当然のようにこれができる、各々ができる阪神の強み。良太の言葉を思い返し、それを感じた。=敬称略=

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