ミスターへ届けたい機運
【11月21日】
ミスターのお別れの会に際し、何が浮かぶか。長く阪神に携わってきたものだから接点は「ない」に等しい。記憶の限り、長嶋茂雄の囲み取材の輪に入ったのは名球会総会の一度きりだ。
その一度は国際大会にまつわる話だった。若くして現役を引退してからもミスタープロ野球、この方の存在自体が「野球振興」そのものだったし、日本の野球少年たちに「世界」を目指してもらいたい思いが伝わってきた。
「お別れの会」で東京ドームのビジョンに大谷翔平の映像が流された。生前のミスターはWBCで世界王者になった侍ジャパンが誇らしかったはずだし、競技を問わず国際大会に目がなかった人だから、この先、WBCの価値が更に高まってほしいと願っているに違いない。そんな視点でいえば、WBCが名実ともに「世界一」を決める大会になれば…あらためて感じる。
このたび来日したドジャース監督のデーブ・ロバーツは、来年3月のWBCに言及し、大谷翔平や山本由伸、佐々木朗希の出場可否について「彼らが決めること」と語った。3選手の出場に否定的な思いを吐露したこともあっただけに胸中は複雑かもしれない。
そんな米国界隈のやりとりこそWBCが依然「真の世界一を決める大会」と言い切れない悩ましさでもある。
たとえばサッカーでは欧州のクラブがW杯に選手を「出さない」なんて議論はそもそもない。歴史、参加国、競技性、何から何まで違うのだから比べようが…。それでも野球の本場におけるWBC大会の価値が最高の栄誉を誇るものに近づき、そうなってもらいたいと個人的にはずっと思っている。
球団側の都合、また米国での利権的な話を書けば終着が遠ざかるけれど、戦う当事者のマインドがそのステージを押し上げる可能性はある。今春4月にA・ジャッジが次回のWBCに参戦し、米国の主将に任命されるというニュースが飛び込んできたが、これぞ、その契機になりうるだろうか。デイリースポーツで長年MLBを取材する特派員・小林信行に米国国内でのWBCの価値についてリアルを聞いてみた。
「米国内での大会価値が上がっていることは間違いないよ。ジャッジの所属球団がこれまで選手派遣に消極的だったヤンキース、しかも彼がそのチームの大黒柱というのも大きいと思う」 今季サイ・ヤング賞に輝いたパイレーツのエースP・スキーンズの参戦表明について聞けば小林は言う。
「球数制限があるとはいえ、投手は野手よりケガのリスクが高いと言われる状況下でスキーンズが早々に代表入りを決断したのは、米国の覇権奪回への意気込みだけでなくWBCの価値を認めている証拠でもあると思う」
ドジャースのキケ・ヘルナンデスがインスタで手術を報告した際に故郷プエルトリコ代表として出場できないことを悲しんでいたことも小林は「大会価値の大きさを示している」と語る。
ならば、大谷翔平のアンサーはもちろん…。26年大会の機運、前回を凌駕するその高まりを天国のミスターへ届けたい。=敬称略=
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