ひとりでは生きられない
【12月5日】
ミスタータイガースの殿堂入りパーティーで、来るべき人が来ていなかったことに気付いた人はどれくらいいただろうか。あの会場であれだけ人が多ければ分からないものか。いや…
今週開催された「掛布雅之さんの野球殿堂入りを祝う会」に、招待されていた重鎮お二人が欠席していた。
坂井信也と藤原崇起。3代前と2代前の阪神タイガースオーナーである。とりわけ坂井は掛布がオーナー付きシニア・エグゼクティブ・アドバイザー(SEA)に任命された際の総帥であり、縁の深い存在…というか、何なら今回のパーティーで祝辞を述べるのでは…と想像していただけに、あれ?と心配になった。聞けば、お二人とも当日の体調が思わしくなかった。列席者に迷惑がかからないように自重されたようで、特に深刻な病状などが原因ではなかったとのことで安心した。
無類の「野球好き」の坂井にとってSEA時代の掛布はまさしく掛け替えのない案内人であり、両人が並んで観戦する姿をよく見かけたものだ。
なくてはならない人はそれぞれに必ずいる。他球団の歴史でも…
今週号の『週刊現代』を読めば、読売巨人軍終身名誉監督付秘書・所憲佐(ところ・けんすけ)の連載「ミスターの背中」が目に留まる。所といえば
長嶋茂雄の側近中の側近として、僕より上の世代の野球記者で知らない者はいないが、この人がミスターと松井秀喜の関係性を綴っているのがおもしろい。虎党だった松井はドラフトで阪神以外の球団から指名されれば大学進学を考えていた…そんな記述がある。それを覆した長嶋との縁は書くまでもない。「自分の師が長嶋茂雄だといえる幸せ」…先日の「お別れの会」のスピーチにはジーンときた。球界で象徴的な「掛け替えのない人」物語は間違いなくこのご両人のそれだろう。
今の世代の阪神のそれを浮かべればどうか。僕があまり知らないだけで選手各々にきっといる。
そういえば、一人知っている。この日の契約更改交渉で1億円プレーヤーになった大竹耕太郎にとって掛け替えのない人を。
和田毅である。大竹が「1億超え」を一番に報告したい師が和田であることは間違いない。では、大竹は和田の何に一番敬意を抱いているのか。早大の先輩であり、ホークス時代、そしてオフの自主トレでもずっと師事してきた和田の言葉で、大竹がずっと肝に銘じていることがある。
「ひとりでは生きられないよ」
よくそう言われたそうだ。
どういう意味か。
「自分ひとりでは野球はできない。ボールを捕ってくれる人がいて、対戦相手がいて、支えてくださる人がいて…どこかがひとつでも欠けたら選手として成り立たない。『そういう有り難みを忘れてはいけない』と…」
聞いてジーンときてしまった。自分の師が和田毅だといえる幸せを大竹は感じている。「掛け替えのない人」との出逢いで野球人生は決まるのだ。=敬称略=
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