心の余裕で甦った宝刀

 【4月5日】

 カウント0-2からの3球目、追い込まれていた佐藤輝明は意表を突かれたように立ち尽くした。見送ったのは栗林良吏のフォークボール。落ち切らない軌道で真ん中に入ってきた。二回先頭のマッチアップである。仕留めていれば栗林の「失投」と表されたかもしれない。そんな落ち球に佐藤輝は反応せず、結果的には3球三振を喫した。マウンドの背番号20は何とも言えない顔をしていた。

 開幕3戦目で中日相手に「準完全試合」をやってのけた栗林との「対戦」を個人的に楽しみにしていた。もちろん「打ち崩してくれる」という願いを込めて。しかし、結果は8回5安打1得点。クリーンアップでHランプを灯したのは大山悠輔のみだった。終わってみれば、あの二回の佐藤輝への浮いたフォークボールが栗林の意図しない格好で効いていたように思う。

 「心に余裕を持たせてあげたい」。新井貴浩のそんな腹案でリリーフから転向した栗林の先発2戦目。対峙する側も長いシーズンを見据えれば「立ち合い負け」はしたくないはず。そんな視点で試合を追ってみたが、とりわけ注目したのは、栗林のフォークボールが「どっちへ転ぶか」だった。

 栗林に相対した打者29人でフォークが結果球になったのは12度。本人がその何割に及第点をつけるか分からないが、今のところ新井の推察は「吉」と出ている。転向を機に甦った最たる球種がフォーク。そんなふうに映った。

 栗林といえばルーキーイヤーの球筋が鮮烈だった。いきなり「抑え」を任され、速球とフォークを武器に新人王を獲った。セーブシチュエーションで一度も失敗せずにシーズンを完走し、鯉党から「失敗しない男」とまで呼ばれた。しかし、ここ数年は宝刀が上ずり、陰りが見えていた。

 それにしても、さすがに今から転向はしんどいのでは…。そんな臆測でカープのキャンプにお邪魔すると、シート打撃で栗林のフォークに打者がことごとく崩されていた。その軌道が全てまっすぐに見えているかのように。

 カープ投手コーチの菊地原毅に聞けば、こんなふうに言う。

 「今までは勝ちゲームの窮屈な中で全球、全力で腕を振る環境だったでしょ。先発でバランス良く投げられることによってフォークボールが良くなりましたよね。力が抜けて指のかかりが良い方向にいってるように思います」

 試合後、カープ担当の記者から「きょうは何が良かったのか?」と問われた栗林は「カウントを取れたり空振りを取れたりしたので、フォークが良かったかなと思います」と答えた。

 先発転向でスライダーなど球種を増やしても、フォークの精度が戻らなければ怖くない。浅い回に佐藤輝へのフォークが抜けたので「いける」と思っていたら、全盛のフォークもくる。どっち?やっぱり、戻ってきたのだ。

 それはそうと、敗れた第3戦で忘れてはいけないのは、その栗林のフォークを二度も仕留めた新鋭のことだ。右へ左へはじき返した福島圭音。甲子園開幕も快音頼んだ。=敬称略=

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