【91】球場へはグラブを持って 高野連の事故対策とファンへの注意喚起
「日本高野連理事・田名部和裕 高校野球半世『記』」
米国の野球事情に詳しい評論家のマーティ・キーナートさん(現仙台大学副学長)からクイズを出された。
「米国で両親と子供2人の4人が野球場に行った。子供は両親の真ん中に座る。では両親が座る位置は?」
少し考えて「ホーム寄りにお父さんが座りグラブをもって家族を守る」と答え、「正解」をいただいた。
「ではお母さんの役割は?」「えっ~。家族のためにサンドイッチを準備する?」「ブッブー。お母さんはスコアブックをつけて子供たちに出場選手たちのデータを解説する」だった。さすがに野球発祥の地とうなった。
米国では野球場はボールが飛び交うもので、グラブをもって球場に行くのが心得になっている。しかもフェンスは極めて低い。臨場感が楽しめるようにとのことだという。
高校野球では都道府県連盟を含めて施設賠償保険や通行人などの第三者損害賠償保険を契約している。
飛球事故や施設の瑕疵(かし)があった時の備えだ。
ずいぶん前になるが青森県の春季大会で、三塁側スタンドで観戦していた老夫婦にライナーが飛んだ。前にいたご主人は体をかわしたが後ろにいた夫人の側頭部に当たり大けがをされた。ご主人が急によけたので不意を突かれた形になった。
100万円くらいの治療費がいった。早速保険会社と交渉したところ、原則として飛球事故に対し主催者の過失割合は一部で、観客に注意義務があるとの見解だった。しかし、野球場に足を運んでくださったファンが大変な目に遭っている時に主催者は「あなたに回避義務があります」などと言えない。こんな時のために保険契約しているのにこれでは加入している意味がないと猛烈に抗議した。
そこで対策として2001年に甲子園で起きたブラスバンド部員の飛球事故以来、日本高野連が中心となって都道府県連盟と「飛球事故見舞基金制度」を設け、毎年少しずつ積み立てた。
とは言っても全額を保証するということではない。日本スポーツ振興センターの後遺障害見舞金制度に準じた制度にした。
同センターでは、児童生徒が学校行事や部活動で起きた事故に対し後遺症の等級ごとに最高3770万円の障害見舞金が設定されている。高野連ではこの額を限度に先の保険で補てんされない部分を給付できるようにした。
しかしこれは事後措置なのでライナーが飛び込むスタンド付近には係を用意して常に注意を呼び掛ける努力は大切だ。皆さんも球場にはぜひグラブをもってお越しください。