【94】タイブレーク導入 投手の障害予防対策へ次の一歩

 「日本高野連理事・田名部和裕 高校野球半世『記』」

 選抜大会が90回、選手権大会が100回を迎える節目の大会からタイブレーク制度が導入されることになった。導入が議論されて足かけ3年になる。一般にはまだなじみが薄いので当初は否定的な意見が多かった。僕もその一人だった。

 軟式野球の第59回全国大会(2014年)準決勝で延長50回に及ぶ試合が4日間行われたことや、昨春の第89回選抜大会で引き分け再試合が2試合続いたことで導入に向け弾みになったように思う。

 タイブレークの導入は何といっても投手の障害予防対策だ。反対意見には、投球数や回数制限をしないと実際の障害予防にはならないというものがある。

 高校野球が障害予防対策に具体的に乗り出したのは、1993年の第75回選手権大会からで、全国大会に参加する投手全員の関節機能検査が始まった。また加盟校に週1日を部活動の休みとする「ゆとりと休養の日」の導入を呼びかけた。

 それから5年後の第80回選手権大会で、PL学園と横浜の延長17回の熱戦があった。この試合が契機となって、01年の第83回選手権大会から延長回数が18回から15回に短縮された。さらに3年後には準々決勝が2日間に分かれて行われるようになり、13年からは準々決勝を元の1日4試合に戻して翌日は全休として完全休養日が設けられた。そして今回のタイブレークの導入を迎える。

 高校野球の障害予防を主導されてきた越智隆弘医科学委員長(大阪警察病院院長)は「何か改革しようとすると10年はかかるね」と漏らされたことがあった。

 タイブレークの導入は確かに投手の障害予防に抜本的な対策になっていないかもしれないが、これだけの歴史のある高校野球を一気に変えるのは難しい。

 高校野球を支援してくれる多くのファンの声も無視できない。

 タイブレークは投手の負担軽減が主眼だが日程の問題も大きい。昨春の2試合連続再試合は、春夏の全国大会を通じて初めてのことだった。阪神タイガースの日程のこともあり、近年は選手権大会後に国際大会が設定されているから、会期の延長はさまざまな支障となる。また応援団が、その間の滞在を延長したり旅程を組みなおす負担も相当額になる。

 横浜高校前監督の渡辺元智さんもあるメディアで「失われる精神文化もあるが、新たな制度の中で精神を鍛えれば、また違った面白さも出てくるかもしれない。歴史が評価してくれる」と述べておられた。高校野球が障害予防に取り組んで26年目でまた次の一歩を踏み出した。

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