【ヤマヒロのぴかッと金曜日】同じ1杯、できれば楽しく食べたいな
毎週木曜日の昼は、ラジオスタッフとともに『木曜日食事会』と称してランチに行くことにしている。カレー、洋食、中華に和食…、ジャンルを問わず評判の店を食べ歩くのを楽しみにしているのだが、先日とても残念な出来事があった。
予定していた店が閉まっていたので、近くにあるラーメン店へ。開店当初も食べに行ったことがあり、味は絶品だったので「これは間違いなくはやるな」と確信したのを覚えている。予想通り行列が絶えない店となり、並ぶことが大嫌いな私は、以後足が遠のいていた。
その日は、たまたま?なのか、満席ではあったが運よく店前に並べられたイスに座ることができた。愛想の良い女将(おかみ)からファイルを手渡されたのでてっきりメニューだろうと思いきや、これがなんと数ページにわたって太くて大きい文字が並んだ店のルールブック!
「連れがいる方はそろってからお並びください」(そりゃそうだ)
「香水など強い香りのするものをご使用の方の入店はお断りします」(これもルールなら追い出されても仕方ないか)
「人工的な香りに従業員に拒否反応が出て業務に支障をきたすと、お待ちのお客さまをお断りして営業終了せざるを得ない…うんぬん」(エーッ!?それってメチャメチャとばっちりやなー)。
他にもいろいろ書いてある。前はこんな緊張するような店ではなかったのだが…。
愛想の良い女将に案内され、店内に入るとカウンターのそれぞれの席の前に『店内では会話をお控えください』と書いたカードがずらりと並ぶ。よほど集中して食べないといけないのだろうか。このあたりで食事を楽しむ気分がなえてきた。厨房(ちゅうぼう)では主人が一人黙々とラーメンを作り続けている。「いらっしゃいませ」も「ありがとうございました」も無い。表情ひとつ変えずに作り続けるその様は、さながら『ラーメン求道者』のような雰囲気さえ漂う。
注文したラーメンが運ばれてきた。食べた感想は…、分からない。何とも言えない。愛想の良い女将には申し訳ないが、店の雰囲気にけおされて、もはや味わうどころではなかった。「こうしたこだわりこそがラーメン道だ」と言う人には何の問題もないのだろうが、私たちはただラーメンを楽しみたかっただけだ。一定のルールを守っている客に対して気持ちよく提供する配慮があってもよい。
昔、天満に安くてうまい『好房』という名のラーメン屋があった。昔ながらの中華そば、甘辛いしょうゆ味はとんこつベースに鶏がら、魚系も入っていたと思う。本当にうまかった。元気なおばちゃんとおっちゃんの「いらっしゃい」の声に迎えられ、しゃべるな!なんて言われなくても、みんな一心不乱に食べてたなァ。
閉店して20年ほどたつが、今でも食べたくなる、心にしみる懐かしい味だ。ストイックに味を追求するのもいいが、『何ちゃらグルマン』『〇名店』といった勲章だけが食の全てではない。(元関西テレビアナウンサー)
◇山本 浩之(やまもと・ひろゆき) 1962年3月16日生まれ。大阪府出身。龍谷大学法学部卒業後、関西テレビにアナウンサーとして入社。スポーツ、情報、報道番組など幅広く活躍するが、2013年に退社。その後はフリーとなり、24年4月からMBSラジオで「ヤマヒロのぴかッとモーニング」(月~金曜日・8~10時)などを担当する。趣味は家庭菜園、ギターなど。
