上條恒彦さん 家族に見守られ旅立つ 85歳 「出発の歌」大ヒット「金八先生」で服部先生を好演
ヒット曲「出発(たびだち)の歌」やミュージカル「ラ・マンチャの男」などで知られる歌手で俳優の上條恒彦(かみじょう・つねひこ)さんが、22日に老衰のため長野県内の病院で死去していたことが31日、分かった。85歳。長野県出身。葬儀・告別式は親族で行った。喪主は妻・悦子(えつこ)さん。家族に見守られ、穏やかに旅立ったという。故人の遺志によりお別れの会は行わないという。
ヒゲとメガネの風貌で親しまれた上條さんが、銀河の向こうに飛んで行ってしまった。最後の舞台となったのは、昨年6月の「六月の雨~梅雨は嫌いですか?~」に出演。同11月にはエンディングテーマ「ゴンドラの唄」を担当した映画「シンペイ~歌こそすべて」の先行上映会が長野県松本市で開催された際、歌を披露。同曲は11年ぶりのレコーディングだった。
昨年末に誤嚥性肺炎となり、一時は危篤状態に陥った。今年1月11日に都内で行われた舞台あいさつに手紙を寄せて「皆さまの前で歌えないことが残念でありません」と悔しがった。今年に入り容体は徐々に回復していると説明されたが、復帰はかなわなかった。
上條さんは故郷の長野から上京し、1962年に歌手になった。71年に小室等のフォークグループ「六文銭」と共演した「出発の歌」で第2回世界歌謡祭グランプリを受賞。39万枚の大ヒットとなった。72年にはフジテレビ系時代劇「木枯し紋次郎」の主題歌「だれかが風の中で」が大ヒット。スケールの大きな美声で魅了した。
俳優としても引く手あまたで、TBS系ドラマ「3年B組金八先生」では服部先生役を1作目からファイナルまで演じた他、NHKの大河ドラマや連続テレビ小説、映画「男はつらいよ」シリーズなどに出演した。
主戦場としていたミュージカルでは「ラ・マンチャの男」に77年から2023年の最終公演まで牢名主、宿屋の主人役で948回出演し、主演の松本白鸚を支えた。「屋根の上のヴァイオリン弾き」では森繁久彌さん演じる主人公テヴィエの盟友ラザール役を80年から演じ、森繁さんの最終公演となった86年公演では森繁さんの指名で7回にわたりテヴィエ役を演じた。94年から01年まではラザール役でテヴィエ役を演じた西田敏行さんを支えた。「マイ・フェア・レディ」では93年から10年の大地真央卒業公演まで、大地演じる主人公イライザの父ドゥーリトル役を417回演じた。
私生活では87年、八ケ岳山麓に移住。故郷の長野に帰郷した。豊かな歌声と人間味溢れる演技、優しい人柄で、日本のエンタメを支え続けた生涯だった。
◇上條恒彦(かみじょう・つねひこ)1940年3月7日生まれ。長野県東筑摩郡朝日村出身。71年に「六文銭」と共演した「出発の歌」がヒットし、72年にNHK紅白歌合戦に出場。同年、フジテレビ系「木枯し紋次郎」の主題歌「だれかが風の中で」でもヒットを飛ばした。俳優としても活動し、TBS系「3年B組金八先生」の社会教師・服部肇役や舞台「ラ・マンチャの男」の牢名主役でも話題に。声優としても「千と千尋の神隠し」「紅の豚」「もののけ姫」といったジブリ作品を中心に出演した。
