中村萬太郎

 進境著しい活躍を見せる立役の中村萬太郎。350万部を超える大ベストセラーの絵本を原作にした京都南座9月花形歌舞伎「あらしのよるに」に出演している。大きな瞳が印象的で、口跡もよい二枚目。六代目尾上菊五郎の著書に感化されはじめたブログ「萬太郎日記『第二幕』」は、日々の生活ではなく、舞台に特化したもの。その月に演じた自分の役に関することを網羅し、ブログを読めばその役が理解できるほど。萬太郎の舞台に対する真摯な態度が垣間見える。そんな姿勢は9月公演にも現れ、独自の工夫を加えている。

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 今回演じているのは原作にでも出てくるヤギの“たぷ”役です。出演が決まってから原作を読みましたが、友情が描かれた良いお話。人間は出てこなくて、動物ばかりのお芝居。でも着ぐるみをじゃなくても、ちゃんとヤギだとわかるし、オオカミだとわかる。鬘を角っぽい形にしたり、ちょっとした工夫をしています。ただやり過ぎにはならないようはしています。

 原作は現代絵本で、大筋ではそれに沿っていますが、歌舞伎らしく敵役が出てきたりします。また歌舞伎ならでは筋立てに近いところもあったり、お子さんから歌舞伎ファンの方まで、幅広い方に楽しんでいただける作品になっていると思います。いろいろとチャレンジさせていただき、日に日に進化していると思います。その分、自分が試されている気がしますし、楽しくもあり、怖くもあります。今後、再演することができればいいですね。

 ブログは『中村錦之助襲名公演』の名古屋公演(2008年10月)から始めました。六代目菊五郎のおじさまが書かれた『芸』という本があるのですが、役のことや芝居の流れ、きっかけ、小屋の寸法など事細かに記されている。落語家さんが芝居をされるときも、この本を参考にされている。僕がそれを目指すというのはおこがましいのですが、自分の役の衣裳や鬘、心情などを書き起こしています。

 今回もそうですが、新作は楽しいですね。新作ブームみたいなところもあり、最近は多いですよね。もし自分がやるなら?『駒長』という落語の作品を歌舞伎でやってみたいです。僕もナマでは聞いたことがないのですが、古今亭志ん生師匠の録音を聞いて、やってみたいと思いました。借金持ちのダメな亭主と女房、間男と…上方の役者も必要だけど、楽しい作品なので、歌舞伎にしたら面白い題材だと思いますよ。以前は落語も稽古して、1度だけ高座にも上がったことがあります。いまは聞くだけですけどね。

 古典はまず初役では教わった通りにやることが、やはり大切ですね。いろいろ自分でもやりたいこともある。でも1回目は先輩方に教わったことをそのままに。2回目にやるときになって、「1回目の方が気が楽だったな」と感じることもあります。

 役を教わるときはこちらから食らいついていかないと。自分のなかで整理して、まとめてポンッと質問することで、それが呼び水となって、次々と新しいことを教えていただくこともある。教わる師匠に「いいよ」じゃなく「もういいから」と言われるくらいやっていきたいですね。

 いままでいろいろと教わってきましたが、印象深い役は梅王丸ですね。(坂東)三津五郎のおじさまに教わったんです。僕が演じた梅王丸をごらんになった方が「三津五郎さんに教わった?」とおっしゃられて…うれしかったですね。最高の賛辞でした。歌舞伎は血も大事ですが、芸の継承も大事ですから。三津五郎のおじさまに生前教わった唯一のお役ですし。泥を塗るわけにはいかない。だからこそ、また挑戦梅王丸に挑戦したいですね。

 11月の巡業で菊之助さんとご一緒する『魚屋宗五郎』も楽しみですね。僕の三吉も、菊之助さんが宗五郎をされるのも初めて。願わくば「また萬太郎に」って言っていただけるようになりたいですね。、

 歌舞伎をやってて怖いのは慣れることです。例えば世話物などでは、流れに乗ってやっていかなければならないものもある。でも自分の中で新鮮でなくなることはダメだし、怖い。慣れないと疲れるのですが、その疲れることが当たり前だと思っています。美味しいものを食べて、疲れていても疲れていると思わないで、いつも新鮮でいたいですね。

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 中村萬太郎(なかむら・まんたろう) 1989年5月12日生まれ。五代目中村時蔵の次男。屋号は萬屋。94年6月歌舞伎座「道行旅路の嫁入」の旅の若者で初代中村萬太郎を名乗り初舞台。2012年12月名代昇進。14年3月国立劇場「菅原伝授手習鑑 車引」の初役の梅王丸が評判となった。これからが期待される立役。

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