中村鶴亀

 古風な顔立ちで口跡も良く、舞台のどこにいても目をひく中村亀鶴。『曽根崎心中』の油屋九平次役や『らくだ』のらくだの宇之助役など個性の強い役柄で持ち味が光る。4月は香川・金丸座の「四国こんぴら歌舞伎大芝居 中村翫雀改め四代目中村鴈治郎襲名披露」(9~24日)に出演する。

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 藤十郎のおじさん、鴈治郎のお兄さんには親戚(※)ということもあり、可愛がっていただいています。世話になりっぱなしで、ご恩がお返し出来ていないです。

 鴈治郎のお兄さんの襲名興行のほとんどで、ご一緒させていただきました。今回の金丸座では『彦山権現誓助剱』と『幸助餅』に出演させていただきます。鴈治郎のお兄さんとは『幸助餅』でご一緒させていただくのですが、和事らしさのある作品ですし、自由度を高くして、お兄さんに応えられるようにしたいですね。

 僕が生まれたのは関西ですが、育ったのは東京で、亡くなった富十郎の伯父も江戸歌舞伎への出演が多かったので、環境から普段の言葉はほとんど関東弁です。でも関西弁が話せるから和事ができるかと言うと、そうじゃないのが和事の難しいところ。和事はアクセントなどの言葉づかいだけじゃなく、空気感が大切だと思っています。だからこそ難しいですね。

 金丸座は小屋自体がテーマパークみたいな所ですので、お客様にはお芝居はもちろん、江戸時代の芝居小屋の雰囲気も楽しんでいただけると思います。

 歌舞伎役者として、やってみたいことは山ほどあります。なんでもやりたいし、やってみないとわからないものがある。まずは与えられたお役には、貪欲に挑戦していきたいですね。

 大事にしているのは、先輩に言われたことは、頭においてやるということです。諸先輩が作り上げてきた、出来上がっている作品をこねくりまわすよりも、そこになるべく近づいていくのが一番いい。そこから自分の色も生まれていくように思います。特に古典は普遍的なものですから、土台をしっかり作り上げないと。先輩方もずっと精進なされていて、人間国宝の藤十郎のおじさまも「先輩方が…」とおっしゃいます。僕自身も感じることですが、歌舞伎役者に完成はないですね。

 プライベートではディズニーが大好きです。ディズニーには色褪せないよさがあり、そこが歌舞伎と共通しているからというのもあります。100年後でもディズニーは存在すると思うんですよ。キャラクターもそうですが、例えば20年前の映画でも色褪せていない。世代を超えて「いいな!」と思えるものがあるんですよね。“流行物”(はやりもの)って字のごとく、流れていくものじゃないですか。でも丁寧に作られ、練り上げたものは残っていく。そのあたりがディズニーと歌舞伎は似ていると思います。

 ディズニーは世代や国を越えて広い範囲で浸透しているけど、歌舞伎はそこまでの範囲で浸透していないのが現状です。だからと言って、誰が見てもわかりやすいものを作る必要はないんじゃないかな。わからなくてもいいんです。わからないから人間は考える。作品の中に込められているものを、これはこうなんだ!と説明すると、僕は面白くないと思うんです。

 実は歌舞伎っていうのは非常にわかりやすい部分もあるんですよ。出てきただけでその人物が良い人なのか、悪人なのかといった善悪がはっきりわかる。一目でわかるというのが、歌舞伎の特色の一つかもしれません。

 歌舞伎が400年の歴史を経て、今も残りこうして広がったのは、丁寧に作られてきたから。先人が作ったものは、壊そうと思ってもそう簡単に壊せないし、また越えられるものでもない。精魂込めて作られたものであればあるほど、残っていくと思います。

 エンターテイメントにはいろんなジャンルがありますが、歌舞伎だけは外国の人ではできないし、日本人でも男性だけ。すごく特殊だけど、日本人はそれを大切にしてきたから今に続いていますし、これからもその伝統は続くと思います。

 また大人になってわかる良さというのもあります。自分自身でも小さな頃は退屈だと思っていたのに、最近になってその良さがわかってきたことがあります。特に歌舞伎は生の良さというかライブ感がある。こればかりは携帯からもネットからも味わえないものだし、伝わらないもの。人の息ってその場でしか感じられないじゃないですか。マイクロソフトの初代社長の古川享さんがおっしゃっていたんですが「機械は使うもの、使われてはいけない」と。ぜひ劇場でご覧いただいて、生の良さを味わっていただきたいです。

 (※)祖母は初代中村鴈治郎の娘の中村芳子

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 中村亀鶴(なかむら・きかく) 1972年6月18日生まれ。初代中村亀鶴の長男。屋号は八幡屋。76年12月京都南座『時雨の炬燵』の倅・勘太郎で本名の渡辺芳彦の名で初舞台。90年国立劇場第10期歌舞伎俳優研修修了。91年1月伯父の五代目中村富十郎門下となり、中村芳彦を名のる。93年4月富十郎の部屋子となる。2001年11月歌舞伎座にて『戻駕色相肩』の禿で二代目中村亀鶴を襲名。09年11月より坂田藤十郎一門となる

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