阪本順治監督 新作「一度も撃ってません」秘話…石橋蓮司18年ぶり主演、その魅力

 俳優の石橋蓮司(78)が18年ぶりに映画に主演した。阪本順治監督(61)がメガホンをとった「一度も撃ってません」(近日公開)。名バイプレーヤーとして存在感を放ってきた石橋が演じるのは“なんちゃってヒットマン”だ。正体は売れないハードボイルド作家で、ひょんなことから本物のヒットマンに狙われる。シリアスとコメディーが入り交じる展開に、世間のことを忘れて物語に没入するのは必至。阪本監督に石橋の魅力や撮影秘話を聞いた。

 -石橋蓮司さん18年ぶりの主演映画。そもそもは阪本監督が脚本家の丸山昇一さんに提案した。

 丸山さんが、伝説の殺し屋だけど実は一度も撃ってないという企画を即答されました。面白いですねって。そこから、(原田)芳雄さんの家で俳優さんが集まったときに桃井(かおり)さんが「蓮司さん主演でやらない?」って言ってくれて動き始めました。

 -監督自身が石橋さん主演で撮りたいとずっと思っていた。

 芳雄さんとやらせてもらって、やっぱりあの世代の人とやると面白いんです。逆に言うと厳しさもあります。脚本がきちっとあって設定もセリフもすべて書いてあるんですけど、あの世代の人たちがやることによって、あの人たちの実人生も投影される。1960年代から70年代、学生運動を含めて世の中がざわついていたころに俳優をされ、社会との向き合い方を自分なりに解釈して身につけられた。そういうのがあの人たちの栄養になって、それが俳優という仕事のなかで自然と出てくるんです。

 -見終わって直後、面白いというより先に「いい時間だった」と感じました。

 シリアスな話ではないですけど軽妙にやっているぶん、映画に没入しやすいのかなと思います。

 -軽妙といえば、大楠道代さんと桃井かおりさんのやりとりが実に面白かった。

 丁々発止するとこでしょ?

 -そうです。ああいうところで監督はどの程度演出されるのか、あるいは俳優任せなのか。

 僕が言うのは「ここに立ってください」と。あと、アドリブのようでアドリブじゃないんです。蓮司さんが言うには「わしら、存在そのものがアドリブだから」って。脚本で決められたことをやっても、あの人たちにしかできない、いわゆる即興性みたいなものが出るんです。当然、そんなにリハーサルせずに本番にいったほうが面白い。現場で生まれることを大事にしたいと思っています。

 -撮影を振り返って。

 たまに人間じゃなくて動物を撮ってんのかなって思ったときもありました。バーのカウンターで酔っ払ってぐだぐだしてるシーンがあります。後ろでポパイ(新崎人生)が編み物してて。あそこはワンカットでカメラを動かさずに撮ってるんですけど、ああいうときは下手したら演劇になってしまう。それを映画的場面としてやってもらいつつ、なんとなく野放しだったんで…動物園で撮ってんのかなって感じはしましたね(笑)。

 -かなり自由に演技されていると。

 セリフはほぼ台本どおりですが、ああいうシーンはカメラのフレームからはみ出ない限りは自由に動いて下さっていいんです。それによって、ある程度長いシーンでも観客は飽きない。それを考えてくれるのは俳優さんで、委ねられるかどうかですね。

 -監督と俳優の相互の信頼。

 それがないとできないでしょうね。

 -佐藤浩市さん、寛一郎さんが親子初共演。上司と部下という設定でせりふを交わします。お2人は三國連太郎さんの息子と孫。2世、3世の俳優についてどのように。

 あの人たちのしんどさを知ってます。浩市だって「あの三國さんの息子」みたいな言われ方をした。父親が俳優であれば恵まれた環境かもしれないですけど、そこで生まれる葛藤があります。誰かの息子とか、誰かの娘と言われることで若いときは皆もんどり打つわけです。生まれた時からの宿命でね。そこから自問自答を重ね、つらさを経験していくと面白い俳優になるんじゃないか。もちろん2世じゃない俳優の苦労はあります。しかし、2世ならではの他の人には経験しえない葛藤は俳優という職業で生かされると思います。僕は寛一郎を彼が子供の頃から知ってます。彼は親の七光りじゃなくて、しちしち四十九光りだからもっと葛藤があったんです。

 -2世3世ならではの苦しみがある。

 そう。だから七光りVS四十九光りの場面を作りました。どんなことを見せてくれるのかなと思って。

 -佐藤浩市さんは寛一郎さんとのシーンでせりふをかんでしまったとか。

 浩市は撮影前には「寛一郎が心配だ」と言ってたんですけど結果、始まってしまえばあんたのほうが緊張してるじゃないっていうね。なに照れてんだよって思いました。目を合わして会話するシーンがあります。寛一郎はなんともない。役だと思ってる。浩市のほうが息子との共演を照れている。先月の完成報告会見でいいわけしてましたけどね。「説明ぜりふが多い」とか、「昨日、別の映画の撮影が夜遅かったので」って言うとったけど、なんですかそれは。今までそんなこと言ったことないじゃない(笑)。

〈WHO’S WHO〉

 阪本順治(さかもと・じゅんじ) 1958年、大阪府出身。横浜国立大学在学中より石井聰亙(現・岳龍)、井筒和幸、川島透監督の現場に参加。89年、赤井英和主演の「どついたるねん」で監督デビュー。芸術推奨文部大臣新人賞など受賞。00年、藤山直美主演「顔」で日本アカデミー賞優秀監督賞など受賞。他の作品に「大鹿村騒動記」、「半世界」など。阪神ファン。酒豪で愛煙家。

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