映画『ぜんぶ、ボクのせい』が突きつける無関心 つらい立場の子供の視点で大人が社会を見る時

 子どもが主人公の映画。となるとファミリー向けのジュブナイル映画を想像するのではないでしょうか。確かに今年は山崎貴監督による子どもが映画館体験をするに相応しい『GHOSTBOOK おばけずかん』が公開され、VFXを駆使した異世界で魔物との冒険に胸膨らませる親子の姿が映画館で見受けられます。

 しかしながら、今村夏子が2010年に発表し、太宰治賞、三島由紀夫賞をW受賞した「あたらしい娘」を映画化した森井勇佑監督の『こちらあみ子』は、明らかに大人たちが子育てと社会の繋がりを考える作品であり、元お笑い芸人であり構成作家を務める金沢知樹の初監督作品『サバカン SABAKAN』は、80年代を舞台に草なぎ剛のナレーションと共に、小学5年生の男の子達がひと夏の冒険を繰り広げる懐かしい香りが漂う作品です。

  このように子どもが主人公でありながら大人達が観客を占める作品が多く公開されている今夏、もう一本、貧困から社会に取り残された子どもと大人の交流を描いた『ぜんぶ、ボクのせい』が8月11日(木・祝)から公開されています。主人公はいじめを苦に児童養護施設から抜け出した13歳の優太。母は男に依存をし、居場所を失った少年が辿り着いたのは、軽トラで暮らすホームレスの坂本のところ。そこで人に言えない苦しみを抱える少女・詩織と出会い、三人は絆を深めていきます。監督・脚本を務めるのは秋葉原無差別殺傷事件をベースにした『Noise ノイズ』が国内外の映画祭で話題となった松本優作。主演の優太には『とんび』(22年・瀬々敬久監督)でスクリーンデビューを果たした白鳥晴都がオーディションで選ばれました。優太が心を開く坂本には、『ある船頭の話』(19年)で長編映画監督デビューも果たした俳優・オダギリジョー。更に詩織役には『ある船頭の話』にも出演していた川島鈴遥が扮し、自分達が互いに心の拠り所となっていく様を穏やかな視点で綴っていくのです。

  そんな松本優作監督が語っていたのは、「子どもの視点で世界を捉える」映画作り。これが意味するところは、少子高齢化社会を迎える現代で、大人達がどれだけ他者に無関心であり、問題の根底を見ずに犯人探しをすることへの客観視による気付きを与えようとしているのではないでしょうか。そんな大人の背中を子どもは見て育つのだから大人達は立ち振る舞いに気を付けなければいけないのです。とはいえSNS上で、自分とは関係がないセンセーショナルな出来事に対して、一方的な視点で論じたり、タブーを犯した人間を叩くという間違った正義感で過度な干渉をするのも現代社会の特徴。それが原因で失われる命もあるかもしれないという想像力の欠如も問題だと個人的には危惧しています。

(映画コメンテイター・伊藤さとり)

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