貴族社会の陰りが見えた刀伊の入寇の「ダメ対応」…藤原公任の冷たい判断の理由は【光る君へ】

吉高由里子主演で『源氏物語』の作者・紫式部(ドラマでの名前はまひろ)の人生を描く大河ドラマ『光る君へ』(NHK)。12月8日放送の第47回「哀しくとも」では、「刀伊の入寇」に対する朝廷の対応のまずさが描かれる回に。そのなかでも藤原公任が、彼らしくない政治的判断をした思わぬ理由に注目が集まった。

■ 戦った者たちへの褒賞の話が出るが…第47回あらすじ「刀伊の入寇」の知らせがようやく朝廷に届いたが、これまでにない事態に、公卿たちの意見もさまざまに分かれていた。藤原実資(秋山竜次)から事の次第を聞いた藤原道長(柄本佑)は、賊が国内に攻め入った場合の備えを考えるが、息子の摂政・頼通(渡邊圭祐)が選んだのは「様子を見る」ということ。道長は頼通を叱責するが、頼通は「父上がおおせになることが常に正しいとは限りませぬ」と反発するのみだった。

やがて戦が終えんし、戦った者たちへの褒賞の話が出るが、藤原公任(町田啓太)や藤原行成(渡辺大知)らは「朝廷の命なき戦」と突っぱね、褒賞が出たのはたった1人。公任は道長の元を訪れ、戦を指揮した藤原隆家(竜星涼)は道長の敵であり、この先の脅威とならぬためにやったことだと、道長に明かす。しかし道長は「こたびの公卿らのありようは、あまりにゆるみ切っており、あきれ果てた」と冷徹に言い放った・・・。

■ 第22回でも描写されていた…地方に無関心の朝廷下手したら日本を侵略するかもしれない外敵を、藤原隆家の指揮のもと、貴族&現地の豪族たちだけで撃退した刀伊の入寇。本来ならば「日本を救ってくれてありがとう!!」と、手放しの称賛+ボーナスで彼らをねぎらってもいいところなのに、目立った褒賞があったのは、壱岐守に任じられた貴族・大蔵種材(朝倉伸二)ぐらい。これは実資じゃなくても「不可解!」と言いたくなる結果だろう。その原因が何だったのかが、第47回では描かれた。

まず上げられるのは、第22回「越前の出会い」のときでも少し描写されていたように、地方エリアでの朝廷の支配がだいぶ怪しくなってきていたことだ。国守のほとんどは実際の政は現地の役人たちに任せて、自分は彼らからの賄賂やちょっとした商売などで私腹を肥やすということが横行していた。つまりそれは、朝廷は地方の腐敗には無関心=地方がどうなろうとしったこっちゃない、というスタンスだったことを意味する。

その象徴と言えるのが、道長の息子・頼通くんが、壱岐で多数の死者が出ているということを知りながらも、すぐに都まで攻めてくる恐れはないということを確認して「静観」を決定したことだ。これは頼通の視野が狭いというよりは、その直前の陣定でも見られた通り「すぐに戦おう」なんて意見は少数派。中堅以上の公卿は兵を出すことをためらい、行成に至っては「祈祷しよう」と、現代人的には「はあっ?」ってなることを、真面目な顔で言う始末。

そんな思考回路だから「九州で抗争がありましたけど、なんとかしときました」なんて報告ぐらいでは「はい、ご苦労さん」程度の、舐めた対応をされてもしょうがない。戦闘に参加した当事者たちはキレても当然というところだが、またしてもこれを上手くまとめたのが藤原隆家様!

平為賢(神尾佑)に「俺の推挙で国守にするよ!」といって、実際に肥前国を与えることで、地方武士たちの不満を上手く抑え込んだ。もしこのとき大宰府にいたのが行成だったら、本当に祈祷しかしなくて、とんでもない被害が出ていたのではないだろうか。

■ 公任までも道長のために…「F4」の絆に驚きしかしこの『光る君へ』では、そういった中央貴族たちの危機意識のなさに加えて、隆家を道長の敵と見なした貴族たちが、彼の力を削ぐ(または戦死してもらう)ために、朝廷が関わることに反対した・・・という説をかかげた。実際に道長の「四納言」のうち、公任と行成は「私闘なので褒賞は不要」という意見を述べたことが記録に残っている。行成は、以前から隆家を敵視するような発言を繰り返していたので理解はできるが、公任までもが道長を守るために、隆家に不利になるよう立ち回ることになるとは思っていなかった。

これにはSNSでも「公任にしては随分薄情な差配だと思ったら、そういうことだったのかの種明かしに胸アツ」「公任、おまい、そんなに道長くんにクソデカ感情持ってたんかい」など、衝撃を受けた人が多かった模様。

「俺ってやさしいから」と自分で言っていた公任らしくない、隆家への冷たい態度は、公任が政治的な状況よりも個人的な感情の方を優先したからだった。これは視聴者に「F4」と呼ばれた、道長+公任+行成+藤原斉信(金田哲)とのズッ友な関係を、ここまで丁寧に描いてきたからこそ生まれた驚きと説得力だろう。

だが、まひろに関してはともかく、政治家としては非常に有能な道長にとっては、そんなつまらない私情で、隆家の功績を否定した公任に「そうだよね! ありがとうね!」とはならなかった。おそらくもう彼のなかでは、国防のことを考えなければいけないという段階をとっくに越えて、地方で力を持つ武士たちを今のうちに中央がコントロールするようにしないと、武力が幅を利かせる世界になる・・・という未来まで見えていたのではないだろうか。

道長があの「望月」の歌を詠ったときからわずか1年後とは思えないほど、時代が貴族の世から武士の世へと急激に舵を切ったという実感を、確かに感じさせた刀伊の入寇。次回の最終回はおそらくまひろ&道長の人生の集大成のターンに入ると思われるけど、それが平安貴族社会の最後の輝きのように、私たちの目に映る最終回になるのではないだろうか。まだドラマは終わっていないが「時代の波を描きたい」と言っていた脚本・大石静と制作陣の意志は、きっちりと私たち視聴者に伝わったと、今のうちに述べておきたい。

『光る君へ』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。12月15日放送の最終回「物語の先に」では、藤原道長とまひろの関係を知った道長の嫡妻・源倫子(黒木華)がまひろにある願いを託すところと、道長がみずからの死期を悟って最後の決断をする姿が、15分拡大版で放送される。

文/吉永美和子

(Lmaga.jp)

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