【野球】没後3年 元広島の鉄人・衣笠祥雄さんをしのんだ日 総理大臣官邸での取材もいい思い出

 さる4月23日は、早いもので、2018年に上行結腸がんで亡くなった元広島東洋カープの鉄人・衣笠祥雄さん(享年71歳)の三度目の命日だった。

 私は3年前のその日、カープの同僚だった高橋慶彦さん(64)に電話したことを思い出した。その時、高橋さんが口にした言葉が今も耳に残っている。

 「今野、俺と衣さんの関係を知ってるやろ。なんも言えねぇ。察してくれ。なんかコメントが必要ならTwitterに出すから、それをみてくれ。しゃべれねえよ」。電話越しに聞こえた声はかすかに震えていた。2人の関係を知るだけに、高橋さんの気持ちは痛いほど理解できた。

 衣笠さんは私にも忘れられない人だった。私が担当記者だったのは1985(昭和60)年からの4年あまりで、駆け出しのころだった。当初、野球ファンなら誰でも知っている衣笠祥雄さんと山本浩二さん(74)という赤ヘル二枚看板に対し、直接話を聞くことにビビりまくっていた。

 そんなある日、衣笠さんに呼ばれ「お前、(山本)浩二ファンらしいな。行きつけのガソリンスタンドのおやじが『今野っていう記者は、山本浩二さんの記事ばっかり書いてるよ。そいつ浩二さんのファンなんじゃないの?』って言うんだ。俺のファンかと思ってたのにな。付き合い考えるよ」と言われたことがあった。

 緊張の面持ちで衣笠さんを取材する私を、リラックスさせるためのジョークだった。顔面をくしゃくしゃにして話しかけてくれたあのやさしさに、その後は徐々に緊張しないでしゃべるようになった。

 気配りに触れたことは何度もあったが、印象深いのは87(昭和62)年の宮崎・日南キャンプ中の出来事だった。衣笠さんにとっては大事なシーズン前のキャンプだった。MLBのルー・ゲーリッグ(享年37歳)の2130試合連続試合出場という、当時の世界記録にあと45試合に迫っていたからだ。

 当然、沖縄・コザキャンプ、その後の日南キャンプは鉄人フィーバーに沸いていた。そんな時だった。キャンプ休養日の前日に「今シーズンはお前たちにも迷惑をかけるからな」という話になり、担当記者の私たちを食事に誘ってくれることになった。

 衣笠さんは肉食で、海鮮類は一切口にしない人だった。にもかかわらず、私たちを連れていってくれたのは、なんと地元の日本料理店だった。自分は当然のごとく地元の新鮮な刺し身などには手を付けなかったが「俺はいいけど、お前たちは魚も食わなきゃだめだぞ」とはにかみながら、皿に取り分けてくれた。大スターの気配りに、顔がほころんだ夜だった。

 衣笠さんは6月13日の中日戦で新記録を達成し、国民栄誉賞を受賞した。そのおかげでスポーツ記者としては珍しい経験もさせてもらった。授賞式の取材で総理大臣官邸に入ることができたからだ。

 「私に野球を与えてくださった神様に感謝します」-。8号本塁打も放ち、自らの新記録達成に花を添えた日、衣笠さんは満員の広島市民球場のファンにこうあいさつした。

 今は天国で、鉄人はその神様とどんな話をしているのだろうか。(デイリースポーツ・今野良彦)

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