【野球】史上初の第8戦で思いだす広島・金石の投打の奮闘劇 86年日本シリーズ

 現役時代の金石昭人
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 あの大型右腕・金石昭人(60)の日本シリーズの奮闘劇を覚えているだろうか。

 2021年の日本シリーズは連日、白熱した好試合を繰り広げている。現時点ではヤクルト、オリックスのどちらに勝利の女神がほほ笑むのか、分からない。そんな状況で思い起こすのが1986年、広島-西武が争ったシリーズである。このシリーズは初戦が延長14回時間切れの引き分け。その後、広島が3連勝し王手をかけたが、西武がそこから4連勝して日本一に輝いた球史に残るシリーズだった。

 広島担当として取材しており、8試合ともそれぞれ思い出深いが、特にプロ野球史上唯一の第8戦は忘れられない。10月27日。決戦の地は広島市民球場だった。この試合、広島の先発は金石昭人、西武は東尾修の先発だった。最後まで1点を争う展開に、私は記者席で固唾(かたず)を飲んで戦況を見守っていた。

 金石は前年、プロ初勝利を含む6勝(9敗)を挙げ、86年は12勝6敗、防御率2・68。ローテーションの一角を占める投手となっていたが、私にとって気心の知れた取材相手のひとりだった。遠征先だけでなく、シーズンオフの間も広島の繁華街に繰り出すこともあった。

 当時、金石は「金田ファミリーで600勝したい」という目標を再三、口にしていた。すでに引退していたが叔父の金田正一さん(故人)は400勝(218敗)、金田留広さん(故人)は128勝(109敗2セーブ)という記録を残していた。2人の叔父の口添えもあり、78年にドラフト外で入団した金石にとって、72勝しての「金田ファミリー600勝」は自分に課したノルマだった。

 金石にとって初出場を果たした86年のシリーズは、さらなる飛躍を誓う絶好の場だったに違いない。23日の第4戦は勝ち星こそ付かなかったが、先発して8回1失点と好投。そして巡ってきたのが、第8戦の先発だった。

 その試合で信じられない光景を目の当たりにした。三回1死二塁の場面で、通算16年のプロ野球人生でわずか1本しか記録していない本塁打を東尾から放ったからだ。

 金石の身長は197センチでリーチも長い。一緒にゴルフのラウンドをした際には、その長いリーチを生かしたドライバーの飛距離に驚かされたこともある。だが、取材する記者でさえも胃がキリキリと痛むような試合での大打球に目を見張るしかなかった。

 六回に秋山幸二に同点の2ランを浴び、八回2死二塁からジョージ・ブコビッチに決勝打を許した。だが、金石にとって投打で十分に存在感を発揮した試合だった。彼は92年には日本ハムに移籍。翌年から抑えに転向したが95年6月26日のオリックス戦(仙台)で、ついに念願の「金田ファミリー600勝」を達成した。まさに有言実行だと思う。

 金石とは今も多少の交流があるが、会うたびにあの日本シリーズ第8戦の奮闘が、彼の野球人生のエポックメーキングになったことを思い出す。=敬称略=(デイリースポーツ・今野良彦)

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