【競馬】記録に残る1勝を挙げた福永祐一騎手と、その背を追う鮫島克駿騎手

 スターズオンアースのVで幕を閉じた桜花賞。先週は他にも私個人の印象に残るレースが2つあった。阪神牝馬Sと、福永祐一騎手(45)=栗東・フリー=が、JRA通算勝利数で単独4位に浮上した日曜阪神4Rだ。福永騎手は、この勝利が元騎手・蛯名正義調教師の2541勝を抜く、2542勝目。デビュー27年目。年間100勝近いペースで四半世紀以上勝ち続けてきたのだから、偉業と言っていいだろう。

 現場で長年、福永騎手を取材させてもらったが、「俺は天才じゃない。才能もなかったしね」という話を何度も聞いてきた。では、なぜここまでの勝ち星を積み重ねられたのか-。それは、誰よりも貪欲で、冷静な自己分析力を持ち、人とは違う努力を積み重ねてきたからに他ならない。

 若手時代は、恥ずかしがることなく先輩に話を聞きに行き、自らの成長につなげてきた。30代前半に競馬に乗った経験がない動作解析のコーチをつけたのは有名な話だが、当初は疑問の声も聞こえてきたそうだ。ただ、どんなに陰口を叩かれようが、うまくなりたい一心で信じた道を突き進んだ。だからこそ、今の若手に「何でもっと聞きにこーへんねやろな。うまくなりたくないんかな」と、物足りなさを覚えることもあったという。

 昨年の年明けだった。20歳下の鮫島克駿騎手(25)=栗東・フリー=が、自らアドバイスを求めてきたそうだ。その話を教えてくれた福永騎手は、どこかうれしそうに見えた。後で克駿騎手にも取材したが、ゲート内の人馬の姿勢や出し方を中心に、木馬を使って、かなり細かく指導してもらったのだという。

 目を掛けている後輩の一人と言っても、ジョッキーという職業はチームスポーツではなく、個人競技。レースになれば敵同士だ。簡単なアドバイスならともかく、自らが培った技術を事細かに伝えることにはリスクも感じるが-。気になった疑問を本人にストレートにぶつけると、「克駿はまだこれからの若手やん。そりゃ、(川田)将雅とかなら別やけどさ」と偽らざる胸の内を明かしてくれた。

 そこには、少なくとも二つの思いを感じる。一つは自らの技術の一端を伝えても、まだまだ若手には負けないという自信。もう一つは日本の騎手全体のレベルアップを図り、常に高い次元で戦いたいというトップジョッキーとしての本能だ。そのため、若手にかつて自らが先輩から学んだことを惜しげもなく還元する。ためらいなくそうできる姿が、私には格好良く映った。

 鮫島克駿騎手は、ブーツ上部の化粧革が福永騎手と同じエンジ色。それは、憧れや尊敬の証しでもある。彼の挙げたJRA重賞4勝のうち、2人が一緒に騎乗していたレースは、昨年のCBC賞(ファストフォース)と、先週土曜の阪神牝馬S(メイショウミモザ)の2回。その両方が、2人のワンツーフィニッシュだったことにも不思議な縁を感じる。

 克駿騎手には、福永騎手が同じステージで争うジョッキーの一人と意識するくらいまで進化を続けてほしいし、福永騎手にはこれからも彼ら若手の高い壁であり続けてほしい。高い技術や駆け引きの応酬による、今以上の熱いレースを期待したいところだ。(デイリースポーツ・大西修平)

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