【スポーツ】上場から2年目 琉球アスティーダの挑戦 赤字を掘って高くジャンプ

 プロ卓球リーグ・Tリーグの琉球アスティーダが卓球界、スポーツ界、ビジネス界に新風を吹き込んでいる。同リーグ参戦3シーズン目となる2020-21シーズンで初優勝した琉球は、昨年3月30日に特定投資家向け株式市場TOKYO PRO Market(TPM)に上場。日本のプロスポーツチームとしては初の上場で、卓球というスポーツを軸としたビジネス展開で、スポーツ界に革命を起こし始めている。

 2021年12月期の営業損益、経常損益はいずれも黒字には至らなかったものの、売上高は4億7400万円で右肩上がりの伸びを示している。赤字は投資分として想定内。同クラブの代表取締役社長・早川周作氏は「もっと赤字を掘る予定でした。低くしゃがんで高くジャンプするためです」と言う。今後の飛躍へ向けた必要投資というわけだ。今年5月、東京五輪男子団体で銅メダルを獲得した張本智和と3年契約を結んだことも含め、今は投資の段階。株主の多くもそのビジョンに賛同している。

 その根底には「弱い地域や、弱いものに光をあてる社会をつくる」という早川氏の志がある。東京や大阪などの都市部ではなく、本拠地は人口約2万人の沖縄・中城村。事務所は村内のアパート半地下、家賃4万8000円の一室にある。「沖縄から世界を獲りにいく」を合言葉に、地元を活性化し、近年注目度が高まってきた卓球をさらにメジャーな競技へと押し上げ、五輪金メダリストを輩出する。実現へ向けて安定してバックアップし続けるためにも、これまでのスポーツビジネスの構造に変革をもたらす必要があった。

 もともと卓球経験はなく「スポーツとは縁がなかった」という早川氏。不動産業やベンチャー企業支援などのビジネスを手掛けていたところ、Tリーグの専務理事を務めていた松下浩二氏(後にTリーグチェアマン、現アンバサダー)を紹介される。銀座の喫茶店でTリーグ創設へ向けた松下氏の熱い思いに触れ、チームを引き受けることを決断した。

 事前に「スポンサーは数社内諾している」と聞いていたものの、実際はゼロからのスポンサー探し。そこでスポーツにお金を出す企業が驚くほど少ないという現実にぶつかった。この問題を解決するための手段が、株式上場だった。BtoB、BtoCのマーケティング会社を設立し、スポンサーになってくれた企業を支える。情報を開示し、ガバナンスを効かせて投資への不安を軽減させる。さらに沖縄県内にスポーツバルを展開。パーソナルジムや卓球スクールという事業にも取り組み、順調に収入を伸ばしてきた。

 「スポーツビジネスのあり方を変えていきたいと考えています。これまでの企業はPRのために(宣伝費として)スポーツにお金を出していた。それではスポーツ界は将来ダメになると思いました」

 例えばコロナ禍などでプロスポーツの活動が制限され、スポンサーが降りてしまえばチームの収入は急減しかねない。卓球界、スポーツ界の将来のためにも安定した資金確保の道を確立したいという使命感がある。

 早川氏は7月末に都内で開催された「アスリートビジネスサミット」で講演し、経営者やビジネスパーソン向けに上場までの道のりなどを熱く語った。同サミットは「株式会社Athletes Business United」(中田仁之学長)が主催。ABUはアスリートのネクストキャリアを支援しており、早川氏はアドバイザーとして、同じくスポーツを軸とした高い志を抱く中田氏、ABUを支えている。

 琉球アスティーダの今後の飛躍は、卓球界だけでなく、日本のプロスポーツビジネス、地方再生にも革命をもたらす可能性がある。早川氏の視界には既に“高くジャンプする時”が見え始めている。(デイリースポーツ・岩田卓士)

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