【競馬】新進気鋭の外厩キャニオンファーム土山 早くも2歳馬がスタンバイ いずれは主流になるか

 昨年5月に滋賀県甲賀市にオープンした新外厩・キャニオンファーム土山。栗東トレセンや近郊の牧場と比べてもハードな傾斜を誇る坂路や、爪に優しい設備など、充実の施設だ。昨秋にオオバンブルマイが豪州の高額賞金レース・ゴールデンイーグルを制す直前にも利用していた外厩には、“超異例”とも言えるこの時期に既に2歳馬が入厩。従来は冬の終わりから春にかけて北海道から移動してくるのがよくあるパターンだが、この取り組みをロールモデルにして、競馬界のスタンダードが変わっていくかもしれない。

 2月頭の時点で関東馬や3月の新規開業厩舎を含む12頭が入厩。一番早い馬では昨年12月、つまり1歳時には既に北海道から移動を済ませ、1月時点で坂路を1F17秒ほどで登坂しているという。現在入っている2歳馬についてはさまざまな事情で馬名は出せないが、栗東に入厩した際にはX(旧ツイッター)などの手段でお伝えできればと思う。

 出口祐介厩舎長は「北海道では毎日乗れないところが多いので」と早期移動のメリットを挙げる。この時期の北海道は降雪、積雪の影響で、屋根がついていない限りは坂路コースで乗ることができない。ただ、キャニオンファームでは雪が降っても稼働できなくなるのは年に1度ほどだ。「動かさないと筋肉量が落ちますし、心肺機能の向上にもつながります。“向こうで15-15をやっていました”という馬も、“本当に?”と思うこともありますからね。早期のタイミングでここまで来ているので、その辺は利点です」と、早くからトレセン近郊で育成することでアドバンテージを取れるのだという。

 出口厩舎長は2022年12月まで、北海道新ひだか町のケイアイファームで勤務。ロードカナロア、ダノンプレミアム、ダノンスマッシュとG1馬に携わったのち、滋賀県大津市のチャンピオンヒルズで経験を積んだ。同牧場ではパンサラッサでおなじみの小泉裕樹厩舎で副厩舎長として、ビッグリボンやリカンカブールを手掛けており、馴致、育成のノウハウも高いレベルで備えている。「オーナーさんの思いをくみ取って、いい結果につながれば。2歳から活躍してほしいオーナーさんもいれば、そうでない方もいますが、“良かったらもっと早く、1歳の馴致からお願いします”と言われるかもしれません」。ソフト面、ハード面双方が充実しているキャニオンファーム土山。いずれは1歳の初期馴致から任させられる馬が出てきても不思議ではない。

 移動の時期が早まる利点は、育成面でアドバンテージを取れることだけではない。昨年から世間で取り沙汰されている『2024年問題』。働き方改革の一環で今年4月からドライバーの労働時間に上限が設けられ、それに伴い生じる物流、運送業界での諸問題だ。馬運車が欠かせない競馬界にとっても決して他人事ではないが、それを少しでも解消できる可能性がある。

 馬運車の運転手の労働時間が制限されると、多くの2歳馬が本州に移って労働が集中する4~5月にはマンパワー不足に陥ることも考えられる。そうなれば、移動したいタイミングで動くことができなくなり、馬や馬房のやりくりが難しくなる。しかし、キャニオンファーム土山のように早めの時期に受け入れることができれば、労働が分散してスムーズな回転が実現することだろう。こうして、社会問題の一部解決にも一役買うことができる。

 いずれは主流になるかもしれない“超早期移動”を可能にしているキャニオンファーム土山。現2歳世代の利用馬が結果を出せば、設備の違いはあれど追随する牧場も増えるはずだ。いつかはリードする立場になりそうな新進気鋭の外厩に目が離せない。(デイリースポーツ・山本裕貴)

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