【サッカー】下位低迷のJ1川崎 下の順位を決して意識に入れない方針がチームにもたらす効果とは?
今季は開幕から苦戦が続くJ1川崎。優勝や、アジアのクラブ王者を決める最上位大会のアジア・チャンピオンズリーグ・エリート(ACLE)出場圏内が遠のくリーグ戦で下位の順位にある状況下でも、鬼木達監督(50)は選手たちへ一つでも上の順位を狙うことを求め続けた。降格圏が近づく中で、下の順位を決して意識に入れない方針がチームにもたらす効果とは何か-。我慢の時にあるチームの現状から、王者復活への鍵となる要素を探る。
今季は開幕からリーグ戦での苦戦が続く川崎。その中で、鬼木監督が一貫して言い続けていることが「一つでも上を狙っていく」ということだ。
シーズン序盤であれば当たり前の言葉だ。開幕のスタートでつまずいても、一つずつ勝利を積み重ねれば上位進出につながる。だが、シーズンも終盤に差しかかった今ならば、受ける印象は変わる。
残り8試合(中止の浦和戦後半を含め)で川崎は15位。降格圏の18位・磐田と勝ち点は5差だ。残り全勝でもACLE出場権を得る3位以内は難しい。「上」に対する目標が見えづらい中で「下」にも意識を向けないといけないのではないか。
少なくとも、降格圏のチームはJ1残留で死にものぐるいで向かってくる。シーズン最終盤で意識を残留へ向けても、彼らの勢いや執念に及ばない-。そんな懸念に対して、一つの可能性を示したのが13日のJ1第30節、最下位・鳥栖との一戦(U等々力)だった。
試合前の川崎は降格圏に勝ち点6差。当然、鳥栖は降格圏脱出への士気は高い。敗れれば川崎は現実的に危機が近づく。その状況でも鬼木監督は「ずっと言い続けているのは、どこを見るかということ。選手にも、どこを見るんだという話は常々している」と選手へ「上」を見て戦うことを徹底して求めていた。
結果は、2-2で迎えた追加タイムの後半55分にFW山田の決勝弾で劇的勝利。ただ、鳥栖が劣っていたわけではない。むしろ個人的な印象では鳥栖のゲームだった。
前半11分にMF橘田のミドルで先制するが、その後は鳥栖が押し込む時間帯も増えた。後半開始早々に同点とされ、10分後にMF家長が勝ち越しゴールを決めるも、後半46分に与えたPKを決められて再び追いつかれた。鳥栖の執念を感じ、その前に勝ち点3を失う結末が見えかけた試合だ。
地力の差が出たと言えばそれまでだが「今回で言えば降格圏と(勝ち点)6差。逆に上の勝ち点6差を見れば8位とか7位だが、やはり上を見る人数が多ければ上に行くパワーがある」と鬼木監督。そして「最後にこういう形で勝てたのは、やはり勝ちを求めていること」と言い切った。
この数年は多くの選手が入れ替わった中、難しいかじ取りが続いた。それでも自らの“基準”を変えてはいけない、強さの土台となる信念がぶれてはいけない-。それが、鬼木監督が選択した我慢の道なのだろう。
「順位で(サッカーの)質が変わるわけではない」と自分たちの高みを見据える川崎。22日の名古屋戦(豊田)は敗れて一進一退の状態は続く。思いが実る時は少し先かもしれない。だが、残りわずかのシーズンに、王者復活の脈動が聞こえる戦いを期待したい。(デイリースポーツ・中田康博)