【野球】なぜ広島・新井監督は現役を引退しても厳しい護摩行を欠かさず行うのか? カープ選手に根付く伝統に迫る
広島・新井貴浩監督(47)が18日、和歌山県高野町の高野山清浄心院で恒例の護摩行に臨んだ。現役時代の2004年12月から始めて、今回で21度目。監督就任以降は3度目の荒行となった。現役を引退してもなお、厳しい精神修行を欠かさず行う理由とは-。カープ選手に根付く護摩行の伝統に迫った。
至近距離に迫ってくる激しい炎に、今年も挑んだ。今月18日。約2時間の荒行を終えて立ち上がった新井監督の足元は少しふらついていた。その後のあいさつも、声はかすれ気味。護摩行の苦しさを物語っていた。
初めて挑んだのはプロ6年目を終えた04年12月。「レギュラーになりたい、野球がうまくなりたい」と、わらにもすがる思いで始めた。以降、毎年オフに敢行。阪神移籍後、広島復帰後も同様だ。18年の現役引退後は4年間、野球評論家として活動した。その期間も火柱と向き合ってきた。
プレーヤーを退いた後も護摩行を欠かさなかった理由は自分を律するため。「一人の人間として『これは続けないといけない』と感じていた。1年でも空けてしまうと、自分がすごくダメになりそうで」と振り返る。
「苦しさを知っている分、やる前は今でも怖い」というのが本音。それでも「苦しいからと言ってどこかで切れていたら、心の張りがなくなってしまうよね。『この苦しい行から逃げずに自分も頑張ってきたんだ』というのが自信になる」。厳しさに耐える時間の積み重ねが強固な心を育む。
監督として臨む護摩行は今年で3度目。長丁場のシーズンでは思い通りに進まないこともある。「そういう時に『もうダメだ』じゃなくて『まだダメだ』と思える。これをやるとね」。過酷な修行は、勝負の世界に身を置く自らの心を鼓舞するための礎になっている。
新井監督の現役時代から、ともに護摩行を行ってきた会沢、堂林は今年も鹿児島市内の最福寺で9年連続9度目の荒行に挑んだ。昨年は末包が初めて臨み、中村奨は2年連続で参加した。
新井監督は護摩行を「心の支え」と表現する。それは選手も同じ。会沢は「シーズン中はつらいことの方が多い。そういう時に、一歩でも二歩でも踏み出せる自分をつくる意味も込めて長年続けている」と語った。
堂林も「シーズンを通して、苦しいことがいっぱいある。その時に負けないように、という気持ちで(行っている)」と明かした。何事にも屈しない心を養う修行の意義は、チーム内に深く受け継がれている。
近年は1月に護摩行を行い、「ここでグッと気持ちを締めてキャンプへ入っていく。そういう節目」と指揮官。心のスイッチを入れて、球春到来を待つ。(デイリースポーツ・向 亮祐)