【スポーツ】新横綱・豊昇龍が目指す“自分らしさ”とは 異例の誓い「負けても休場しない」「最後までやります」
大相撲春場所(3月9日初日、エディオンアリーナ大阪)に新横綱として臨む豊昇龍(25)=立浪=が25日に開いた番付発表会見。「負けても休場しない」という異例の目標が際立った。綱の重みを「ちょっと怖い」とも語った。横綱らしい威厳、力強さとはかけ離れた個性。他の横綱と比べた時、豊昇龍の目指す“自分らしさ”を考察した。
異例すぎる誓いだった。豊昇龍は「新横綱場所のプレッシャーを自分の体で感じてみたい。何が起きても休場はしない。負けても休場はしない。最後までやります」と宣言したのだ。
1990年2月の新日本プロレス東京ドーム大会。坂口征二と組み、橋本真也&蝶野正洋組と対戦するアントニオ猪木が控室で、敗戦時のダメージを問うアナウンサーに「出る前に負けること考えるバカいるかよ」と言い放った名場面がある。横綱が「負け」を想定することに驚いた。
もっとも、豊昇龍は多忙で減った体重をベストの150キロに戻し、初日までの調整に自信を見せるなど、土俵をおろそかにしている訳ではない。
それでも稀勢の里、照ノ富士と2代連続で新横綱場所を制している点には「責任重いよね」と苦笑い。横綱を「うれしいんだけど、すごく責任を感じる。ちょっと怖い」と言った。一人横綱には「最初から責任重くないですか?」と報道陣の笑いを誘いながら、その重圧を隠さなかった。
過去の新横綱の番付発表会見。照ノ富士は21年秋場所で「尊敬される横綱になりたい」と口にし、稀勢の里は17年春場所で「常に優勝争いに絡む」と誓っている。
叔父の朝青龍は03年初場所で「いつもの相撲で一生懸命やりたい」と意外に謙虚に述べ、白鵬は07年名古屋場所で「(優勝は)できればしたい。自信は多少はね」と語り、日馬富士は12年九州場所で「体が小さい子供にも勇気と希望を与えたい」と意気込んでいる。
要するに、自身の特徴や状況に沿って、前向きなことを言えば大丈夫なはずだ。結果が伴わなくとも、発言自体を責められるいわれはない。
師匠の立浪親方(元小結旭豊)は豊昇龍を、叔父の朝青龍と「顔が似ていますからね」としつつ「でも気の強さは全然違う。意外とおとなしい。素直だよ」と話す。
立浪部屋はアットホームな雰囲気で、稽古は厳しくとも、終了後は皆でテレビゲームを楽しむこともあるという。会見で重圧や不安を語りつつも、豊昇龍の表情に暗さや重苦しさはなかった。所々で「へへっ」と笑顔を入れ、雰囲気は明るかった。師弟、弟子間の関係性も異例な宣言につながったのだろうか。
昇進時から掲げる「どんな横綱っていうより、おれが豊昇龍だっていう横綱になりたい。どんなすごい横綱だった人のこともまねしない。新しい横綱を出したい」という目標。異色の会見の様子を見る限り、確かに独自性に満ちた横綱になりそうな気がした。(デイリースポーツ・山本鋼平)