【野球】「魂はそこにはない」元プロ野球審判の住職が明かす現代のお寺事情 墓じまいの相談、葬儀のあり方…
プロ野球審判として2414試合に出場した佐々木昌信さん(55)が、ルールブックを経典に持ち替えて4年が過ぎた。群馬県館林市にある覚応寺の第18世住職となった佐々木さんは29年間の審判人生を糧に地域に開かれた寺づくりに奔走している。高齢化社会に突き進む現代。誰もが避けては通ることができないお墓や葬儀といった関心事について異色の住職が率直な言葉で語った。
◇ ◇
およそ300年続く実家の寺を継いだ佐々木さんは時代の変化を痛切に感じている。
「今は墓じまいの相談がものすごく多いですね」
少子高齢化や核家族化、未婚率の増加。遠方にあるお墓を守っていくことが困難になるなど事情はさまざまながら、現代社会が抱えている問題は、確実に寺にも波及している。
「言い出しにくい方もいらっしゃいます。お墓を自分の代で途絶えさせることをマイナスにとらえる。地方は特に何々家の墓というのをものすごく大事にする文化があるので、ご先祖さまに顔向けできないという気持ちはよく分かるんです」
そう理解を示した上で「だけど、しょうがない。時代なんです。嫁いで近くにいない娘さんに帰って来いって言えますか?あとは住職に任せてあるからでいいんですよ」と声を大にする。
「お墓はお骨の保管場所だと思ってください。魂はそこにはない。大丈夫ですからって言うんです。今は合葬墓(複数の遺骨を一カ所の共同墓地に埋葬する形式)というのもあって、そこに入ることもできる。何々家のお墓はなくなるけど、ちゃんと成仏もされてますから、と。そんな話をすると『ちょっと安心した』って言われるんです」
コロナ禍を経てお葬式のあり方も多様化しているという。通夜をせずに、葬儀・告別式と火葬を1日で執り行う1日葬、家族や親族、親しい人たちのみで小規模に営む家族葬なども選択肢となった。
「仏教の教えは普遍ですが、寺に求められるものは変わっています。イレギュラーなことが多かったり、想定外の相談があったり。経典を学ぶだけでは、住職は務まらないとつくづく思いますね」と実感を込める。
住職に転身した当初、「お寺は敷居が高い」との指摘を受け、開かれた場所であることにも心を砕く。
「地域の誰でも来られる場所にしたいと思っています。徐々にでいいんですけど、お寺って行ってもいい場所なんだと思ってもらえれば。学校が終わった子どもが、親が帰ってくるまで居られる場所にしたいとか、あれもやりたい、これもやりたいっていうのはあるんです。いろいろ考えてたらプロ野球の審判だったことも忘れてしまうんですよ」
檀家(だんか)以外の人の参加が9割を超えるという寺ヨガや、習字教室の開催、お寺の公式サイトでのコラム発信などは、そうした考えの表れだ。
本堂の横には客殿と呼ばれる「お茶飲み場で語らいの場、井戸端会議の延長線上で使ってもらう場所」がある。畳敷きの部屋の壁には、審判を引退した2020年当時に12球団の監督から贈られた色紙が飾られている。
「引退のあいさつに行った時に、それぞれの監督さんが書いてくれたものです。野球に興味がある人には話のネタになって、9割方野球の話をして帰っていかれることもある。そうでない人には審判だったことも野球の話も一切せずに、お寺の話をします」
公正中立さが求められる審判時代。選手や監督らとの距離感に関して「グラウンドであまり話をしないように」と注意されたこともあるという。だが、佐々木さんのコミュニケーション能力や話術は、親しみやすい住職として存分にいかされている。
「審判の時、評価を気にする後輩には、いちいち気にしてたら、グラウンドに立てないよ、自分は自分でやりたいことをしっかりやってダメならしょうがない、と言ってました。腹をくくれるかどうかですから」
考え方は住職となっても変わらない。
「評価はお檀家さんや周りがすること。自分はこういう住職でありたい、こういうお寺にしたいということをやる。いい意味で文句を言ってもらえる環境にあるんですよ。いい勉強をさせてもらってますし、楽しく過ごさせてもらってます」
異色の住職はそう言ってほほ笑んだ。
(デイリースポーツ・若林みどり)
佐々木昌信 1969年8月6日生まれ。群馬県出身。大谷大学文学部真宗学科卒。外野手として3年秋に京滋大学リーグでベストナイン選出。1992年にセ・リーグ審判となり95年に1軍デビュー、29年間で通算2414試合に出場。球宴4回、日本シリーズ6回出場。2017年に第4回WBCに日本代表として出場。2020年に引退し同11月から実家である真宗大谷派覚応寺の第18世住職を務める。東都大学野球審判員。
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