【野球】楽天ドラフト1期生は現在、大学准教授に 西谷尚徳氏「傍観者」だったドラフトで一場靖弘投手と再び同僚に
プロ野球の楽天、阪神でプレーした西谷尚徳さん(42)は現在、立正大学法学部の准教授を務めている。球界再編によって誕生した楽天から2004年のドラフトで即戦力内野手として指名され、明大のチームメートだった一場靖弘投手らと同球団のドラフト1期生となった。6年のプロ在籍期間を経て、西谷さんはいかにして教育者へと異例の転身を遂げたのか、その歩みをたどる。
◇ ◇
元プロ野球選手の気配はまるで感じられない。
「よく言われます」
西谷さんは苦笑する。その姿は都内にある大学のキャンパスに溶け込み、生来の研究者といった雰囲気を醸し出している。
21年前、西谷さんは新球団の楽天が初参加することで話題を集めたドラフト会議を「完全なる傍観者」として見ていたという。
「大学の寮の食堂かなんかに大きいテレビがあって、1人でポツンとドラフト中継を見てたんです。思い返すと、同期の一場は大学の方で会見が用意されていました」
大学球界屈指の右腕と言われていたチームメートの一場投手は、すでに楽天への自由獲得枠での入団が決まっていた。
自身にもプロ球団からの調査書は届いており、ドラフト候補生としてマスコミにも取り上げられていた。だが、プロ野球選手になるという現実味はなく、会見出席への打診も断っていたほどだった。
4巡目で自分の名前が読み上げられた時、初めて「プロになれるかもしれないんだ」と意識したというが、どこか俯瞰している自分がいた。「普通だったらワーッと盛り上がっていくんですけど、客観的に見てたし、すごく冷めてたと思います。静かでしたね」。
一場投手を巡っては、ドラフト前の8月に金銭授受問題が明るみとなり当時の巨人・渡辺恒雄オーナーらが辞任する大騒動に発展。西谷さんは野球部のキャプテンとして、渦中の人となったチームメートの防波堤となっていた。
「記者の方がたくさんいらしてたんですけど、自分についての取材っていうのは少なかった。『一場のことは話せることと話せないことがあるので。お分かりですよね、私は守らなければならない立場なんで』なんて言ってましたね。子どもながらに大人ぶって必死に頑張ってたというか」
ドラフト翌日のデイリースポーツには、楽天から指名を受けた5分後に、西谷さんの携帯に一場投手から「よかったな、よろしくな」と祝福の電話が入り、明大の別府隆彦元総監督が西谷さんを「一場のお目付け役」に指名。「技術はもちろん、人間的にもチームにいい影響を与えられる選手」と話したと記されている。
「一場は実力はあったわけですから。私なんか関係なく、やっていけるのは分かってたんで」
一場投手をそう評したが、西谷さん自身、当時から異色の選手だった。二塁手として3度のベストナインに輝くなど六大学野球で活躍しつつ、在学中に高校の国語教師の資格を取得。文武両道を確立したキャプテンはチームから厚い信頼を寄せられる存在だったのだ。
即戦力の期待を受けて新規球団の1期生に名を連ねた西谷さんだったが、プロ野球人生は順風満帆とはいかなかった。
「総じて振り返ると、自分が弱かったり、けがも多くて期待に応えることができなかったという反省なんです」
初めてのキャンプではプロのレベルの高さに目を奪われた。2軍調整をしていた元オリックス・大島公一内野手らの熟練のプレーを「もう選手の方たちがすごすぎて、ほれぼれするようなプレーで」と振り返る。
対外試合が始まると不安はさらに大きくなった。考え込むタイプだという西谷さんは、精神的にも追い込まれた。
「結果が出る出ないにかかわらず、ガンガン野球に打ち込める人はうらやましいなと。胃はキリキリするし、ストレスが皮膚に出てきたり。他の選手に圧倒されてる自分がいるんだけど、それを出さずになんとか頑張ってるっていう感じでしたね」
もがいた1年目。1軍で出場することはなくシーズンは終わった。新規球団の楽天もまた、初年度から苦戦を強いられた。38勝97敗1分、勝率・281でリーグ最下位に沈み、初代監督を務めた田尾安志氏は1年限りで退任。翌2006年から野村克也氏が指揮を執ることが決まった。
(デイリースポーツ・若林みどり)
西谷尚徳(にしたに・ひさのり)1982年5月6日生まれ。埼玉県出身。明大文学部卒。明星大大学院修士課程修了。2004年のドラフト4巡目で楽天入り、09年に退団。トライアウトを経て2010年に阪神と育成契約を結び、オフに引退した。翌年から高校の国語講師などを務め、13年から立正大学法学部の専任講師に。18年から准教授を務める。専門は教育学。
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