【野球】「野村監督は難しいサインをいっぱい出す」大学准教授になった元楽天・西谷尚徳氏 プロ初のお立ち台を呼び込んだプレーを回想
昨年、球団創設20年を迎えた楽天にドラフト1期生として入団した西谷尚徳さん(42)は、立正大学法学部の准教授を務めている。プロ野球選手として楽天、阪神で6年間を過ごした西谷さんにとって忘れがたいのが、2006年から監督に就任した野村克也氏との出会いだ。野村監督から出されたサイン、応えたプレーを振り返った。
◇ ◇
野村監督が就任した2006年、プロ2年目だった西谷さんは念願の1軍出場を果たした。9月10日の西武戦に9番三塁でスタメン出場し、8回に山岸穣投手からプロ初安打を記録した。
その年は10試合に出場し、10安打、4打点、打率・357という成績を残した。
だが、翌年は右ひじの手術を受けたことで1年間をリハビリに費やし、2008年もチャンスは巡って来なかった。3年ぶりの1軍昇格をつかんだ2009年は6試合に出場したが、その年のオフに戦力外を通告されている。
「野球ファンの方に言ったら怒られると思うんですけど、僕の中では結果を出したか出してないかは、それは人の捉え方だと思うんです」
そう前置きして西谷さんは続けた。
「16試合を任せてもらった中で、勝手な思い込みかもしれないですけど、野村監督に信用して使ってもらえたんだなって実感があるんです」
実働2年で16試合に出場し、50打数12安打、0本塁打、7打点、1盗塁、通算打率・240。試合数は決して多くはないが、起用された試合はほぼスタメンを任された。指揮官が出すサインに応じた自負もある。
「野村さんは難しいサインをいっぱい出すんですね。それを一個も失敗せず一発クリアできてたんで。それは自分の中で良かったと思う点です」
元々、得意ではなかったという犠牲バントは6を記録。「プロに入って磨いて、何とかできるようになったので、それは自分の中で褒めてあげられるところかな」と話す。
2009年6月14日の横浜との交流戦は、西谷さんのプロ野球人生において最高の一戦となった。
2番二塁でスタメン出場し、三回に三浦大輔投手から先制のスクイズを成功させた。さらに五回の第3打席では1死一、三塁で偽装スクイズのサインに応えた。スクイズ失敗に見せかけて一塁走者の二盗をアシストし、二、三塁と好機を広げた西谷さんは、三浦投手から追い込まれながらも2点タイムリーを放った。
「試合後の会見で野村さんは『キャンプで練習した通り』っておっしゃってたんです。偽装スクイズはキャンプ中に1度くらい練習をするので。でも、私は1軍メンバーじゃなかったんでやってなかった。話を聞いて2軍で練習してたんです」
その試合で1安打3打点1盗塁と勝利に貢献した西谷さんは、プロ初のヒーローインタビューに臨んだ。勝利投手の岩隈久志選手、2本塁打を放った山崎武司選手に挟まれ、晴れやかな笑顔を見せた。
「すかさず、松井さん(優典2軍監督)に電話して、(偽装スクイズのサインが)出ましたよ!って。やっといて良かったなって言われましたね」。当日の興奮を思い起こすように西谷さんは声を弾ませた。
野村監督は試合後、こんなコメントも残している。「2軍から来ている人が頑張っている。特に西谷と平石(洋介氏)。彼らは必死さが伝わってくるよ」
西谷さんは言う。
「自分が年を取って、できる人に任せるとか、託すとか、サインを出すってことの気持ちが分かってきたんです。自分が抱え過ぎちゃったりした時に、仕事を頼むよって言って、やってくれる。野村監督がそう思ってくれてたらいいなと思っています」
指揮官が信頼して自分に仕事を託してくれたことを願った。
野村野球の薫陶を受けたことは大きな財産だ。
「一番は考え方を学ばせてもらった。1つのプレーや動きに対してしっかり考え、俯瞰して考えることを学びました」
実はプロ入り前に野村野球を受け入れる下地は作られていた。西谷さんは埼玉・鷲宮高時代の野球部監督だった高野和樹氏の名前を出した。
「高野先生は私の恩師なんですけど、捕手出身の方なので、野村監督の考えを自分で煎じて私たちに飲ませてくれたりしていたんです。ですから準備の大切さとか、ずっと前から知ってましたし、予習があって本番みたいな感じでしたね」
不思議な巡り合わせを西谷さんは感謝した。
(デイリースポーツ・若林みどり)
西谷尚徳(にしたに・ひさのり)1982年5月6日生まれ。埼玉県出身。明大文学部卒。明星大大学院修士課程修了。2004年のドラフト4巡目で楽天入り、09年に退団。トライアウトを経て2010年に阪神と育成契約を結び、オフに引退した。翌年から高校の国語講師などを務め、13年から立正大学法学部の専任講師に。18年から准教授を務める。専門は教育学。
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