【野球】トライアウトを経て阪神入りした元楽天戦士「私はもう終わるから、他の若い選手を使ってください」2度目の戦力外通告受け入れ教職の道へ
2004年のドラフト4巡目で楽天に入団した西谷尚徳さん(42)は、2009年に戦力外通告を受けた。その後、トライアウトを経て阪神と育成選手として契約したが、1軍出場はかなわないまま2010年オフに2度目の戦力外を通告された。引退後、教職に就き、立正大法学部の准教授を務める西谷さんが、プロ野球選手としての人生に区切りをつけた阪神時代を回想した。
◇ ◇
プロ入り5年目の2009年は西谷さんにとって激動のシーズンとなった。
3年ぶりに1軍出場を果たし、6月にはプロ入り初めてのお立ち台も経験したが、その年のオフに楽天から戦力外を言い渡されたのだ。
「予想できてるんですよ。その前の年、もっと前の年からクビになるだろうって思ってて、ならなかった。まだやらせてもらえるんだって感じでした。3年目を全部、棒に振ってるんで」
右ひじを手術して1年間をリハビリに費やした2007年以降は、常に自分の進退を意識し、覚悟する「濃密な3年間」だったという。だが、その期間があっても、戦力外通告は堪えた。
「実際に球団に呼ばれて、来季構想に入ってないと言われるとやっぱりショックなんですよね。受け入れるまでに時間がかかって。選手として一番いい状態だったんです。2軍クラスの投手だったら、どんな投手でも打ち返せるっていうのがあったんで」
だからこそ、トライアウト参加を決めた。「けじめをつけようと、そういう思いでした」。11月11日の甲子園に続いて参加した、25日の神宮でのトライアウトでは、阪神から戦力外となった辻本賢人投手から右中間フェンス直撃の二塁打を放った。
西谷さんの打力を評価していた阪神は、12月2日に鳴尾浜で入団テストを実施。その後、獲得の意向を伝えられたが、打診されたのは育成選手での契約だった。
「育成でいいかと言われて、本当は嫌ですよ。だけど何のためにトライアウトを受けたんだとか、えり好みするのかとか、いろいろ考えた上で、そこしかないんだったら行くしかないなと。何を言ってるんだと思われるかもしれませんが、選手として生きていく、生計を立てるってことで、ちゃんと考えたいことがあったので」
自問自答を繰り返し、育成契約を受け入れて阪神入りする決意を固めた。
新規参入球団だった楽天から関西の人気球団への移籍。「伝統的なところもあったし、鳴尾浜は雰囲気自体が1・5軍みたいな感じで。2軍監督は大学の先輩の平田(勝男)さんだったんですけど、人間味があるっていうか、熱いものがあると感じましたね」
環境面では恵まれていたと振り返るが、選手としては厳しい現実を突きつけられた。
「セカンドには早稲田から出てきた上本(博紀)がいたり、2軍ではしっかりした育成プランができていた。上にも鳥谷(敬)さんがいるし、平野(恵一)さんがいるし、入っていけないんですよ」
ただ、ライバルの存在以前に、古傷である右ひじが悲鳴を上げていた。トライアウト参加のために、オフにひじを休ませられなかったことが負担につながり、選手生命を脅かしていたのだ。
2軍のコーチには明大の先輩である筒井壮氏がいた。
「筒井さんは故障者リストの方も担当されてたんです。時々声をかけてくれたり、気に懸けてくれたりするんですけど、ひじがダメだったので、先輩だからこそ、『もう私は終わるから、いいです。他の若い選手を使ってやってください』って、そんなことも話せました。夏ぐらいにはもう限界で、もう潮時かなと」
2軍戦に出場しながら、自分の中での踏ん切りは早い段階でついていた。10月初旬。プロ入り2度目の戦力外通告を西谷さんは冷静に受け止めた。
「呼んでいただいたことに感謝です、とお伝えしました。きっぱりでした」
未練なくユニホームを脱いだ。
「プロに入ったら野球は仕事なんです。稼がなきゃいけない。稼げなくなったら、他の仕事をしないといけない。クビになったら、使えないってこと。稼げないという評価なので」
プロ野球選手になるという夢とともに抱いていた、もう一つの目標-教員になることが現実味を帯びてきていた。
(デイリースポーツ・若林みどり)
西谷尚徳(にしたに・ひさのり)1982年5月6日生まれ。埼玉県出身。明大文学部卒。明星大大学院修士課程修了。2004年のドラフト4巡目で楽天入り、09年に退団。トライアウトを経て2010年に阪神と育成契約を結び、オフに引退した。翌年から高校の国語講師などを務め、13年から立正大学法学部の専任講師に。18年から准教授を務める。専門は教育学。
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