開催迫れば「もっと賛成にシフトすると思っていたのに」 東京五輪賛否パネル調査、依然過半数が反対
7月23日に迫る東京オリンピックの開会式。各国・地域選手団が入国し、来日した国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長の耳を疑うような言動がいやが応でも注目を集めています。一方、開催地東京は新型コロナウイルス対策に伴う緊急事態宣言下にあり、主要会場には声援も手拍子も響きません。この状況での平和の祭典をあなたはどう受け止めますか。社会心理学の研究者が継続して調べたパネル調査から見えてくるものはー。
大阪大学大学院人間科学研究科の三浦麻子教授、香港城市大学メディア・コミュニケーション学部の小林哲郎准教授が、一定の期間を置いて同じ人に同じ質問をするパネル調査という手法で、5月26~29日、6月10~12日、6月17~18日、6月23~25日、6月30日~7月1日、7月7~8日の計6回、WEBで実施しました。東京五輪について、(1)非常に反対(2)かなり反対(3)やや反対(4)どちらでもない(5)やや賛成(6)かなり賛成(7)非常に賛成-の7択で尋ねました。
第1回調査(930人が回答)では、(1)(2)(3)のいずれかを選択した反対が72.5%、どちらともいえないが16.0%、(5)(6)(7)のいずれかを選択した賛成が11.5%。第6回(847人が回答)でも構図は同様で反対が66.0%、どちらともいえないが12.9%、賛成が21.1%。3分の2が反対の姿勢を示しました。
第1回調査から第2回調査の間で、賛成が6ポイント近く増やし、反対は第3回調査までに5ポイント減りましたが、第4回以降は反対、賛成ともにほぼ膠着状態。「もっと賛成にシフトすると思っていました。6月上旬にはメディアの世論調査でも開催と中止が競り合うような結果になっていました」と三浦教授は話します。また、7月14日に別サンプル(n=1001)でとったデータでも、反対56.9%、中立20.4%、賛成22.8%と、過半数が厳しい見方をしています。
調査期間中の出来事を見ると、5月には多くの自治体で、高齢者のワクチン接種が始まっています。24日には東京と大阪で大規模センターでの接種がスタートしました。その後、国内の新規感染者数は大きく減少し、6月には沖縄以外の北海道、東京、愛知、京都、大阪、兵庫、岡山、広島、福岡に発出していた緊急事態宣言を解除(18日)、東京オリパラ組織委やIOCなどの5者協議で、観客上限を最大1万人とする方針を決定(21日)というニュースも伝えられました。一方で、ワクチン接種率は劇的には伸びず、7月に入ると感染者のカーブも増加の兆しを描きます。東京都が聖火リレーについて公道での走行中止を発表(6日)、東京に4回目の緊急事態宣言発令の方針決定(7日)、1都3県の無観客が決定(8日)と立て続けに事態は急変し、現在に至ります。こうした経緯も回答に影響したのかもしれません。
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単純な比較はできませんが、「国民総出で支持した」という印象の強い前回の東京五輪(1964年)では、実際の“温度”はどうだったのでしょうか。時事通信社が「前回東京五輪、直前まで国民は冷めていた」と題して、当時の世論調査の数字や調査したNHK関係者のインタビューを、2019年9月の記事で特集しています。
記事によると、開催が決まった1959年から時間がたつにつれ、成功の予測を尋ねる調査では危ぶむ回答が上回っていました。大会前年の1963年、政府とメディアによる盛り上げキャンペーンが始まると、成否の予測は拮抗します。大会年に入ると、「りっぱに行なわれる」と答えた人は90%に達し、開幕に向け突っ走ります。そして映像で伝えられるあの熱狂ー。
今回の調査中に、記事内で触れている報告書「東京オリンピック」(NHK放送世論調査所)を熟読したという三浦教授は「中心になってまとめた藤竹暁先生(学習院大名誉教授)のデータにあったような一体感は、今回の東京五輪からはまるで感じられません。少し動いてはいるけれど二極化にも遠い。少なくとも過半数が反対なのにそのまま突っ込んでいく感じですね」と語ります。
このまま開幕の日を迎え、そして日本勢がメダルラッシュという状況をメディアが報じたら…空気が一転するのでしょうか。
「それはあると思いますよ。日本勢が活躍したらうれしいのは当たり前のことですし、それはそれでよかったよね、と思うでしょう。一方で感染が一層拡大したりすると、気持ちの持って行きどころはどうなるんでしょうね」
東京都の新型コロナウイルスの新規感染者は14日、1149人でした。1千人を超えるのは2カ月ぶり、第4波のピークだった1121人(5月8日)を上回り、第5波が立ち上がりつつあります。
(まいどなニュース・竹内 章)