妊娠中のよくある体調変化だと思っていた…根治後に悪化した「心室中隔欠損症」 命の危機にさらされた出産、保育所探しでも制度の壁…持病と生きる現実とは

心臓に穴が開いている「心室中隔欠損症」は、先天性心疾患の中では患者数が多い疾患だ。根治の手術を受けて日常生活が普通に送れるようになると当事者は定期健診へ行かなくなってしまうことも多く、医療関係者から「根治しているなら大丈夫」と疾患を軽視される場合もある。

だが、心室中隔欠損症は決して“軽い疾患”ではない。当事者であるたらこさん(@taraco5558)は出産を機に、異変が発覚。持病と付き合うことの難しさを痛感した。

■無自覚のまま病状が悪化していた

たらこさんは1歳半で心室中隔欠損症と診断され、3歳半の頃に根治の手術を受けた。その後は、半年から1年ごとに定期検診。日常生活は普通に送れており、学校ではマラソンや水泳などの激しい運動のみ禁止だった。

大学卒業後は事務職に就き、旦那さんと結婚。妊娠・出産を経て、旦那さんの転勤で県外へ引っ越した。

すると、転院先の病院で驚きの事実が判明する。無自覚な状態で病状が悪化しており、右心室から肺動脈への血流が妨げられる「右室流出路狭窄」や心臓の弁に異変が生じる「弁膜症」が起きていたのだ。

「定期健診は受け続けていましたが、妊娠や出産の関係で詳しい検査ができなかった間に病状が悪化していました。動悸やむくみといった症状は妊娠・出産によっても起きるので、異変に気づくことは難しかったです」

■病状の悪化で息子の保育園探しに悩んで…

手術日までは絶対安静だが、2歳の我が子と静かに過ごすことなど不可能。たらこさんは、入院中に息子さんを預けられる保育園探しにも悩んだ。主治医の意見書を持って自治体の窓口で相談するも、居住区内にある保育園に入ることができなかったからだ。

「まだ入院してはいないことと、当時の私は条件に当てはまらず障害者手帳を持てていなかったので、事情を説明しても入園の優先度は上がりませんでした」

そこで、一時保育をしてもらえる保育園を利用しながら保育園探しを継続。受け入れ可能な保育園が見つかったのは、手術の1カ月前だった。

「術後は条件に当てはまって障害者手帳を持てたので入園の優先度はあがりましたが、障害者手帳の有無に関わらず、持病がある親が安心して治療できる仕組みが整ってほしい」

たらこさんは手術や治療で金銭的に苦しかった時、世帯収入で助成が検討される保育料の負担を大きく感じたため、そうした制度も良い方向に変わることを願っている。

■障害者手帳を持たない私は配慮される対象ではないと思ってきた

たらこさんには他にも、持病との付き合い方に悩んだ経験がある。中でも忘れられないのが、就活中に感じた歯がゆさだ。

当時、教員を目指していたたらこさんは小学校教員採用試験を受けたいと思った。だが、2次試験には水泳や体操の実技が…。運動制限があることから、どうすればいいのか悩み、周囲に相談するも、前例がなかったからか、納得できるアドバイスは得られなかった。

「当時は障害者手帳を持てていなかったので、障害者手帳もないのに持病への理解が得られるかのだろうかと怖くなって、結局、小学校教員の夢を諦めました」

障害者手帳の取得条件を満たさない自分は、配慮される対象ではない。そんな想いから、夢を諦めた後は一般雇用枠での就労を頑張ったが、体力的に無理をすることも多かった。

「職場で持病のことは伝えていましたが、自分のキャラもあって『頑張れば大丈夫でしょ』などと流されてしまうこともありました。先天性心疾患はドラマで描かれるような儚げな人ばかりじゃないことが伝わってほしい」

■様々な科が連携して大人の先天性心疾患者が守られる医療体制を

持病を積極的に伝えるようになったのは、良き執刀医や主治医に出会えたことが大きい。再手術を任せた執刀医は大人の先天性心疾患者に見られやすい症状やたらこさんの心臓の状態を詳しく教えてくれた。

そして、主治医は病状を丁寧に説明し、気持ちに寄り添ってくれる。そうした医師たちとの出会いを経て、たらこさんは定期検査を受け続けることの大切さを改めて痛感。軽く見られることもある心室中隔欠損症のリアルを伝えたいと思うようになった。

「他の科にかかる時には病名やしてきた手術を伝えますが、『根治術を受けているのなら普通の人と同じ』と言われることも多く、主治医との見解の違いに悩むこともあります」

実際、妊娠中には産婦人科医と主治医の見解の違いによって命の危機にさらされたことがある。産婦人科では普通分娩が可能だと言われたが、心配になって主治医に確認したところ、妊娠37週目以降は心臓が持たなくなる危険性があるため、帝王切開での早期出産を勧められたのだ。

もし、自分で確認しなかったら、どうなっていたのか。そんな恐怖を感じたからこそ、様々な科が連携して大人の先天性心疾患が見守られていく医療体制が整ってほしいと願う。

「女性だと、月経に関する相談を主治医か産婦人科医のどちらにすればいいのか悩むこともあります。心疾患者はピルが飲めない場合もありますが、患者側に知識がないと病院から処方されてしまうことは意外とあるので、上手く連携してもらえたら嬉しい」

■医療保険の加入が難しい…大人の先天性心疾患者が直面する“社会的な壁”

たらこさんは現在、一般社団法人 全国心臓病の子どもを守る会に参加し、先天性心疾患児の親と交流している。

「生きているだけでありがとうと言われて、心に響くものがあります」

実はたらこさん、子育てをする中では健常者の母親のように公園で我が子と長時間、遊ぶことが難しいことが歯がゆく、寂しい思いをさせているのでは…と悩んだこともあったそう。だが、最近は、自分の活動で子どもの楽しみを増やすこともできるのだと前を向けるようになった。

その一方で、社会的な壁に悩むことはある。たらこさんの場合は、加入できる医療保険の少なさにもどかしさを感じた。また、家を建てる際には団体信用生命保険に入れず、共同名義での住宅ローンが組めなかったという。

当事者の声が社会に届くことで、そうした現状が良い方向へ変わることを願わずにはいられない。

「心室中隔欠損症は、当事者であると医師でも定期健診から足が遠のいてしまうこともあると聞きます。症状が出た時には治療が難しいケースもあるので、元気でも必ず定期健診を受けてほしい」

たらこさんの優しい訴えを聞くと、心室中隔欠損症の見え方が変わりもする。

(まいどなニュース特約・古川 諭香)

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