「来月から総務部へ行ってくれ」入社以来技術畑の30代SEに上司命令 畑違いの部署への異動は拒否できますか【社労士が解説】

中堅IT企業で働く30代システムエンジニアのAさんは、入社以来5年間、夜遅くまでキーボードを叩き、最前線で開発プロジェクトを率いてきました。エンジニアとしてのスキルをさらに磨き、キャリアを積み上げていこうと張り切っていたある日、上司から「来月から、総務部へ異動してほしい」と、突然の宣告を受けます。

これまで開発一筋でやってきたAさんにとって、その内示は左遷されたかのような激しいショックでした。それと同時に「自分の専門性を無視した異動なんて納得できない。拒否して会社と戦うべきか、それとも辞めるべきなのか」と憤りを感じます。

このように技術者が「畑違い」の部署への異動を命じられたとき、法的に許されるのでしょうか。社会保険労務士法人こころ社労士事務所の香川昌彦さんに聞きました。

■企業が持つ「人事権」は驚くほど強い

ー職種を大きくまたぐ異動を会社が命じるのは法的に許されるのでしょうか?

Aさんのケースは、法的に許される可能性が高いです。その異動が「嫌がらせ目的の懲罰的なもの」ではなく、経営上の「合理的な理由」に基づくものであれば、法的に違法と判断されるケースは極めて少ないのが現実です。

多くの人が思っている以上に、企業が持つ人事異動の決定権は強いものなのです。

ー雇用契約書で「職種限定」の合意がある場合はどうなりますか?

「職務限定(ジョブ型雇用)」で契約が結ばれている場合は話が別です。もしAさんの入社時の雇用契約書に「システムエンジニアとしての業務に限定する」という明確な「職種限定」の条項があるなら、本人の同意のない総務部への異動は契約違反となります。

契約書や就業規則を確認する際は、職種が「エンジニア職に限定されているか」それとも「総合職として必要に応じて異動があるか」という点に注目してください。通常の正社員契約では「会社の指示する業務に従事する」と広く定められていることが多く、その場合は職種限定とはみなされません。

ー畑違いの異動に隠された会社の合理的な意図とはどのようなものでしょうか?

技術者からすれば開発から外されるのはショックですが、この異動にはエンジニアとしての専門性をさらに高めるための合理的な意図があるかもしれません。

現場の実務や業務の流れを知ることは、ただコードを書くだけのエンジニアから、ビジネス全体を理解して課題解決ができるハイレベルな技術者へと成長するための貴重な機会になるのです。会社がこうした前向きな育成方針を持って異動を命じているのであれば、それは決して左遷ではありません。

ー異動に納得できない時、会社と角を立てずに交渉する方法はありますか?

まずは会社がどのような意図でこの異動を命じたのか、本心を聞いて話し合うことが大切です。その上で、どうしても「コーダーとしてしか生きていきたくない」という強い意志があるならば、会社の方針に従う代わりに、転職をするか、フリーランスとして自分のスキル一本で生きていく道を選ぶしかないでしょう。

◆香川昌彦(かがわ・まさひこ) 社会保険労務士/こころ社労士事務所代表

大阪府茨木市を拠点に、就業規則の整備や評価制度の構築、障害者雇用や同一労働同一賃金への対応などを通じて、労使がともに豊かになる職場づくりを力強くサポート。ネットニュース監修や講演実績も豊富でありながら、SNSでは「#ラーメン社労士」として情報発信を行い、親しみやすさも兼ね備えた専門家として信頼を得ている。

(まいどなニュース特約・長澤 芳子)

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