「鬼壁」に見守られ…

 【8月2日】

 「こやしょう」「まっちゅう」の在校生、卒業生は皆さんテレビにかじりついただろうか。こんな伝説はどこ探してもなかなか見当たらないので、僕が彼らの同級生なら友達でなくとも自慢する。

 坂本勇人と田中将大である。

 ここで紹介しなくとも、両者のエピソードは色んなメディアで語り尽くされてきた。彼らが同じ少年野球団の同級生でバッテリーを組んでいたこともそうだし、当時は、坂本が投手で田中が捕手だったことも今さらのネタ…。

 「こやしょう」とは、伊丹市立昆陽里(こやのさと)小学校の、そして「まっちゅう」とは、同市立松崎中学の愛称であることも、それが坂本&田中の母校だから知るファンも多いと思う。

 田中の粘投に応えようと三回に坂本が中越え二塁打をかっ飛ばしそれが先制点に繋がった。東京五輪、野球競技の準々決勝である。

 口火を切った坂本に今度は田中が応えようと腕を振る。ピンチでは鬼の形相で何度も梅野隆太郎のサインを見やった田中だったけれど、四回は9番打者のN・アレンに勝ち越しの一打を食らってしまう。ここで降板した田中はベンチでも鬼の形相を崩さなかった。

 ベスト4をかけた米国戦で何を書こうか。初先発の田中とその同級生が活躍すれば、ストーリーはドラマティックになる。多くのメディアが2人の〈ルーツ〉を取り上げたいところ。ボクは個人的に兵庫県の小中学野球に少し携わったもので、2人の伝説を耳にすることが今でも多い。

 実況アナが興奮のあまり坂本のフェン直打を「入った!ホームラ~ン」と言い間違えてしまった四回である。その直前「小中学校同じチームでやっていた田中と坂本です」と紹介していた同アナだけど、これもちょっと訂正が要る。

 小学校は同じチームだけど、中学の硬式野球は別々のクラブ…って、これもファンの間では有名かもしれない。彼らが同じチームでライバル心を燃やした昆陽里タイガース時代の少しマニアックな話を書けば…

 昆陽里小と松崎中の運動場は繋がっていたため、見た目でいえば伊丹の少年野球チームでは最も広大なグラウンドで2人の鬼才は育ったといえる。そこで打撃の飛距離を競っていた坂本&田中の負けず嫌いなエピソードはよく見るけれど、この夜、厳しい面持ちでアメリカに対峙したマー君を眺めながら思い出すのは、2人がバッティング練習の際に背にしていた通称「鬼壁」のこと。

 現在の昆陽里小にはもうないのだが、20年前の当時はグラウンドに大きな鬼の画が描かれた壁があり、伊丹が生んだ2人の鬼才は赤鬼、青鬼、白鬼に見守られながら日本を代表する超一流への礎を築いたのだ。この壁のルーツを僕は知らないのだけど、坂本、田中に「鬼壁」と聞けば、彼らは間違いなく懐かしむ…それくらいインパクトのある絵だった。鬼の形相で戦う侍をこちらも気付けば鬼の形相で追っている。伊丹の伝説を必ず決勝戦で書きたい。=敬称略=

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