甲子園で見つけたもの

 【8月11日】

 近親者として甲子園で智弁学園の初戦を観戦させてもらった。相手は倉敷商。星野仙一の母校である。終わってみれば10-3。一方的になったけれど、この試合を闘将が見ればどう語るだろうか。

 そんなふうに思いながら、第1試合終了の音を聞いた。途中出場した智弁捕手の安藤壮央(あんどう・そお)は、元千葉ロッテ外野手・安藤学を父親に持つサラブレッドである。東邦で名を馳せた父と親子二代での甲子園出場を果たした壮央は、その初打席で右翼へ安打を放つなど輝きを放った。しかし、父に聞けば「いや、まだまだだよ。捕手として(終盤の)3失点は良くない。2年生の投手をあいつ(壮央)がしっかりリードしてあげないと」と、温かい眼差しを向けながら手厳しい「親心」の注文も忘れなかった。

 安藤家とはご近所で家族ぐるみの付き合いがある。幼少期から父の背中を見て育った壮央は西宮から奈良へ野球留学。春夏連続で地元へ凱旋したのだから、そんな孝行息子はいないと感じるけれど、最高峰の捕手業の厳しさを知る父目線のハードルは並ではない。

 第2試合の横浜対広島新庄は、監督が元捕手同士というマッチアップだったので、こちらも楽しみにしていた。1点を争う接戦になったわけだけど、横浜監督の村田浩明は勝負所で4番・立花祥希に犠打を命じた。地方大会で打率・586を残した主砲はこれを決め切れず併殺…村田の顔がわずかに歪んで見えた。それでも劇的なサヨナラで智弁との2回戦へコマを進めたわけだけど…ご存じのように、横浜高野球部といえば、前監督の問題でいろいろあった。同校の御大・渡辺元智の「お前しかいない」という一言に背中を押され村田は新監督を引き受けたと聞くが、就任当初は、部員が皆「自分がどれだけ打球を遠くに飛ばせるか」ばかりに固執しているように映ったそうだ。それでは勝てない…。かつて涌井秀章とバッテリーを組み甲子園を沸かせた村田新監督は、変わり果てた横浜高野球に愕然とし、渡辺の教えを胸に刻んだ。チーム全員で繋ぐ野球-バント、走塁…細やかな練習を増やし意識改革に乗り出したという。

 一方、横浜のサヨナラ弾に屈した広島新庄だけど、監督の宇多村聡は広島商の捕手出身。高校時代バッテリーを組んだ岩本貴裕(現カープスコアラー)から宇多村野球について聞いたことがあるけれど、神髄は守備中心のしぶとさ。この日も選手個々が随所にそれを披露し、双方に見応えがあった。

 星野仙一といえば、「吠える」「怒る」のイメージが先行するけれど、「緻密さ」を求められた選手は少なくない。自身が投手だっただけに、バッテリーとして何をされれば一番嫌か…監督として、それを選手に徹底していた。「こと走塁に関しては、うるさかったよ」。金本知憲はそう語っていたし、藤本敦士からは「持ち場持ち場でやるべき仕事をきっちりやらないと、それは厳しかった」と聞いた。明日再出発する矢野野球がより楽しみになった。=敬称略=

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