ハグで迎えなかったワケ
【8月20日】
取材の限りを書きたい。この日巨人への無償トレードが発表された中田翔についてである。日本ハム球団で諸々取り沙汰された今回の問題ではなく、阪神にまつわるハナシをこの機会に…。
思いっきり後出しになってしまうけれど、動くなら巨人だと思っていた。色んな意味で「絶対ないだろう」と思われている球団だけど、獲るなら原サンしかいない。そんなことを身内で話していた。中田の髪は黒くなり、髭もそり…。そんないでたちで巨人軍のユニホームを身にまとう。原辰徳監督管轄のもと、中田が再起を図る…。そんな予想が見事に的中した。
「よく来てくれたね、と言ってハグしたよ」
原サンは巨人軍の担当記者から中田との対話、その中身を聞かれそう話したそうだ。
ハグ…。念願叶ってFAで獲得した選手とも、なかなかしない。日本ハム監督の栗山英樹から直電があったこと、キャプテン坂本勇人にLINEで「歓迎してやってくれ」と伝えたこと…そこに至る諸々の経緯があったにせよ、原サンは、要は中田の加入が「うれしくてたまらない」のだ、きっと。
例の一件のすぐ後、僕がツイッターで「頑張れ、中田翔」とつぶやくと、様々なリプライをもらった。18歳のころの中田を少しばかり知る者として、再起を期待したい…そんな投稿に対し、いくつか反論がある一方で、500件以上の「いいね」もいただいた。
しかし、「中田巨人入り」の報を受けて「頑張れ!」と書けば、きっと僕のツイッターは炎上し、フォロワーは激減する。
だって、巨人へ行ったから。
じゃ、もし阪神だったら?
そう問われれば、僕の投稿以前に、その可能性が「0」だったと答えるしかない。
阪神が中田獲得に興味を示した過去がある。噂でも何でもない。本当の話だ。
いつかといえば、金本知憲が監督を務めた時代。中田がFA権を取得したタイミングで球団の上層部で共有された案件であり、もし金本が首を縦に振っていれば「阪神中田」は誕生していた。
だが、金本は承諾しなかった。なぜか。中田のことが嫌いだったわけでは、もちろんない。どころか、同郷広島の野球人として10代の頃から可愛がっていたし、中田も金本を慕っていた。そんな間柄だっただけに、これは現実味を帯びるか…個人的にはそんな見方をしたものだけど、金本がハグで中田を迎え入れることはなかった。
「外様の俺が言うのも変だけど阪神は生え抜きの一流を育てないといけない」-金本は常々そう語っていた。既に糸井嘉男をFAで獲得した後でもあり、中田を獲れば、また一つポジションが減る。「○○や○○を育てなあかん」。金本は「中田獲り」に動かなかった理由を明確に語っていた。
「中田を獲ってたらどうなってたかな」-監督退任後、金本が冗談混じりにそう呟いたことはあまり知られていない…。=敬称略=