導いてやるべき人

 【8月23日】

 西谷浩一の野球をいつも楽しみにしている。理由はひとつ。チームを勝たせるからだ。敗者救済方式でなくノックアウト方式のトーナメントで勝ち切ってきたリーダーには、ずっと興味がある。

 藤浪晋太郎からも西谷の偉大さをよく聞いたし、だからこそ、今夏は大阪桐蔭の雪辱を見られる気がしていた。

 「子供たちの頑張りを、監督がうまく導いてやれなかった」

 西谷は敗戦後のインタビューでこう語っていた。晋太郎がこの人を敬ってやまないワケは、つまりそういうことなんだろう…と想像できる。何年前だったか。晋太郎とテーブルを囲んだときに彼がこぼした言葉が印象的だった。

 「いいものを見過ぎました」

 いいもの-とは、西谷の哲学であり、指導であり、野球である。

 ならば、渦中の中田翔はどうだったか。やはり「いいものを見過ぎた」と語るだろうか。日本ハム時代の中田と何度か食事を共にさせてもらったが、そのあたりはこちらから確かめたことがない。

 この度、中田を巡って各所から様々な意見が飛び交う。僕に寄せられたツイッターでは「風さんのご意見を」とも振られたが、今回の責任の所在を書くならば、その一端以上のものが日本ハムの監督にあると僕は思っている。

 あの時ベンチ裏で実際に何があったのか。動画、録音はもちろんその経緯、当該選手の胸中も見聞きしていない者に真実は分からない。ただし、同球団が中田の暴力があったことを認め、統一選手契約書第17条(模範行為)違反で12軍全ての試合の出場停止処分を科したことを発表、社長兼オーナー代行の川村浩二が、「この(中田の)行為に対して野球協約に則り、厳正な対応をとることとしました」とまで発表したのだから、中田に相応の反省が促されてしかるべきであることは判る。と同時に、これが常態化していたならば監督の「監督不行き届き」を問われるのは当然であり、中田を信頼し、中田から信頼された栗山だからこそ、時間をかけてでも、愛弟子がもう一度ファンに受け入れられる最善策を練ると思っていた。

 逆にいえば、このタイミングでこれをやれば中田が間違いなく世間から叩かれる…と想像できるような結論だけは下さないと予想していただけに(移籍先は想像できたけれど)、今回の顛末は意外なものに思えた。

 西谷のハナシを前述したが、選手がいわば個人事業主のプロ野球と、高校野球を同じ定規で語るつもりはない。が、プロ野球において、あらゆる意味でファンを落胆させないよう、選手、チームを、「導いてやる」責任はやはり監督にある。これまでの言動でしか判断できないけれど、少なくとも栗山という監督は、それを承知するリーダーであると僕の目には映っていた。中田を10代から応援してきた当方は中田がもう一度、大勢の野球ファンから支持されるように願う。どうすればそれが叶うのか。野球開催のない日にもう一度この件を書きたい。=敬称略=

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