ちゃんとやってよ
【8月24日】
お馴染み「ジョックロック」が流れた甲子園で追加点の起点となったのは渡部海(わたべ・かい)だった。そう書けば、高校野球ファンなら分かる。この日も智弁和歌山の正妻が攻守で躍動した。
高松商戦で高嶋仁前監督のお孫さん奨哉が2安打したものだからそちらに注目が集まりがちだけど僕の推しは和歌山の海クンだ。
八回にヒットで出たその渡部海が5点目のホームを踏んでダメを押し、智弁和歌山が8強を決めたわけだけど、この捕手はかつて15歳以下の日本代表に選出された強肩である。
19年に開催されたU-15アジアチャレンジマッチの優勝メンバーでもあり、阪神OB捕手中谷仁監督のもと研鑽を積む2年生だから、今から各球団スカウトも目を光らせている。
その彼の「好きな言葉」が朝日放送で紹介されていた。
「ちゃんとやってよ」-。
これも高校野球ファンなら分かるかもしれない。
昨冬、イチローが智弁和歌山野球部を3日間にわたって指導したハナシは有名だけど、その最終日スーパースターは同校のナインに「ちゃんとやってよ。ずっと僕は見てるから」と言い残していた。
イチローはこの言葉の意味について「あのひと言であの3日間を思い出せるんですよ」と語っていた。つまり…渡部捕手はその言葉を口ずさむたび、レジェンドからもらった金言を、この半年以上の間思い起こしてきたのだと思う。
市和歌山・小園健太を倒し甲子園出場を決めた智弁和歌山は当然投打とも充実したチームだけど、僕は和歌山大会からずっと、その「捕手力」に注目してきた。
「バッテリーを含めた守備では2点以内に抑えるのが目標」という中谷監督にとって、この日の3失点は及第点だろうけど、やはり強肩渡部が「ちゃんとやれば」、抑止力は抜群に効くのだ。
夜の京セラドームでも、僕の着眼は「捕手力」へ向いた。
タイガース青柳晃洋が(生え抜きの)ドラフト5位以下入団初の2ケタ勝利を達成したこの夜、彼に寄り添いその筋道をつくってきた梅野隆太郎はやはり称えられるべきだと思う。
青柳は勝利した後よく「梅野さんのリードのおかげ」と語っているが、その通りだと思うし、配球はもちろん、ルーキー時代から取り組んできた盗塁阻止への呼吸、共同作業は年々精度が上がる。
藤井彰人バッテリーコーチは今夏高校野球を見ながら、高校生捕手の強肩ぶりに目を見張っているがその一方で、「僕らの頃はプロ入りするような捕手がいると、その相手チームは全く走ってこなかった」と話していたのが興味深い。
今季、梅野の盗塁阻止率は数字上、抜群とはいえない。
しかし、それは打率と同様で、いかに勝負所で高い数字を残せるかが評価されるべきであり、「シビれる盗塁阻止率」においてちゃんとやれば「梅野=鬼肩」の抑止力はこれまで通り、申し分ないものになる。=敬称略=