山ごもりの成果を
【8月31日】
J・マルテが走者一掃の同点タイムリー二塁打を放った。彼の復帰を待ち望んだ虎党がいったい何人ツイッターで「キターッ!」と叫んだことか。オッサン記者も思わず拳(こぶし)をにぎった。
ロハスJr.の拙い守備もあって序盤でいきなり5点のビハインドを負った…おいおい、勘弁してくれよ。そうでなくとも、首位陥落で凹んでいるデイリースポーツ読者が多いんだから。何とか、甲子園で連敗を止めたいんですけど。そんなこと考えていたら五回にあれよあれよと塁が埋まり、ここ一番で打順が3番にめぐる。野球ってそんなもん…なんて思いながら淡い期待を寄せていたら、救世主がこれ以上ないバッティングを見せてくれたわけだ。
8・31だから、佐藤輝明とマルテの日になればサイコーだった。しかし、ラッキー7のチャンスで代打の輝は三振。これで26打席ノーヒット?僕が都合よく描く筋書きなんて、うまいハナシはない。そうなんだけど、やはり物書きとしては、こういう夜はドラマティックに決めてほしかったわけで…。
それにしても、期待を一身に背負うマルテ様だから、彼の「ドラマ」を書きたい。あんた、いつも「取材が鉄則」なんてエラそうに書いてるやん?この間(かん)マルテのネタ取材してたんか?そう仰る読者もいらっしゃるだろう。
いやいや、正直、こんなご時世では…と言い訳ばかりしている昨今だけど、コロナ禍ならではの秘話をひとつだけ。
五輪期間を利用して一時帰国していたマルテが再来日したのは、7月25日のこと。球団から「今後は自主隔離期間を経てチームに合流する」という旨の説明があったわけだけど、もちろん、その後のマルテの足取りは取材NG。僕らメディアは彼が公の場に出てくるまで待つしかなかった。
あの2週間、マルテはどんなふうに過ごしていたのか。
神戸市内の自宅マンションに引きこもって、ずっとお気に入りのDVDでも見ていたのか?
はたまた、マンションの前でひとり素振りでもしていたのか。
いや、違った。
マルテは山ごもりしていた。
ご近所の迷惑にならぬよう、兵庫県内の、人里離れた山中で自主トレに励んでいたのだ。本当に。
中身は、主にバットスイング。ストイックに体を動かし、汗をかき、来るべき自身の出番へ向けエネルギーを蓄えていた。
なんてったって、マルテはやる気満々で再来日していた。矢野燿大から前半戦のMVPに指名された助っ人なのだから、当然だ。
「山ごもり」のトレーニングといえば、昔、ミスタープロ野球・長嶋茂雄が富士山をのぞむ静岡県内でそうしていた…なんて耳にしたことがあるけれど、最近はあまり聞かないような。
人知れず、マルテは山中で牙を研いでいた。寝違えがあったかどうかは正直よく知らないけれど、
とにかく、頼もしい男が帰ってきた。おかえり、マルテ。きょうはそれだけ言っておく。=敬称略=