奥川が顔色をなくした右飛

 【6月23日】

 五回終了後、カープベンチでバッテリーコーチ倉義和が持丸泰輝に声を掛けた。上本崇司のタイムリー三塁打でゲームが振り出しに戻った直後だ。ごくろうさん…かと思いきや、見当は外れた。

 もちまる??誰や?

 全国の虎党の中には、テレビをつけてツッコんだ方もいたかもしれない。この阪神戦を前に育成から支配下登録されたばかりの20歳が、会沢翼らを押しのけ、いきなりスタメンマスクである。

 阪神にとってはチャンス。誰もが思った通り、初回から綻びをついた。立ち上がり、カープ内野陣の守備が続けて乱れ、持丸も二つのパスボール。先発A・アンダーソンの暴れ球に四苦八苦し、三回は島田海吏と近本光司が2人で3盗塁。初顔捕手に容赦なかった。これはもらった。嵩に掛かって序盤に大量点…いや、それが叶わなかったことで劣勢を強いられた。

 「物怖じしない」 

 カープの関係者に「持丸ってどんな選手」と聞けば、複数からそんな答えが返ってきた。だから注目した。彼が失点を重ねた初回。走られまくった三回。そして、アンダーソンにアクシデントがあった五回も…。確かに、ピンチで顔色が変わらない。日焼けで赤ら顔だけど、目が泳がない。扇の要に不可欠なメンタリティである。

 19年夏の甲子園で1回戦負けした旭川大高の正捕手…そう聞いてもピンとこないかも。そもそも、カープのスカウトは、彼のどこをどう評価して指名に動いたのか。取材してみると、発掘のきっかけは1本のライトフライだった。

 3年前の甲子園といえば、奥川恭伸がその名を全国に広めた大会である。星稜が全国制覇を目指したその初戦の相手は、注目右腕、能登嵩都(のと・しゅうと=桐蔭横浜大)擁する旭川大高だった。 星稜が1-0で迎えた九回1死走者なし。奥川の完封を期待するマンモススタンドが一瞬固唾をのんだ。大会No.1右腕のチェンジアップを真芯で捉えた左打者の大飛球はライトスタンドへ伸びた。

 「浜風がなかったら同点ホームランだった」

 ネット裏に陣取った各球団スカウト、大方の見方である。

 「あれは、危なかったです…」

 これは奥川が試合後に発したコメントであり、あわやの残像を刻んだ相手が、持丸だった。

 「あの試合、捕手としても能登を好リードして星稜打線を1点に抑えました。第2打席で奥川からセンター前へ痛烈なヒットを放ちましたし、九回のあの一振りで一気にプロ注目選手になった」

 旧知のパ・リーグのスカウトから聞いた話である。

 この夜、カープはリードを奪った後の八回から会沢がマスクをかぶった。僕は同点の五回に代えると見たけれど、七回に持丸の代打堂林翔太に1発が出るのが勝負の綾か。持丸を支配下登録した時点で佐々岡監督は対阪神3戦目のスタメンを決めた。カープは初戦、2戦目を取ったので持丸を起用しやすくなった。阪神にとって星を落とせない夜だった。=敬称略=

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