他の人なら決断できない

 【6月24日】

 時計の針が19時を過ぎたころ、三塁側のブルペンでは根尾昂が肩をつくっていた。青柳晃洋と大野雄大が投げ合う中盤。この接戦で登板機会があるのか。そんなことを考えながら試合を追った。

 試合前に立浪和義と根尾昂が何やら話し込む場面があった。前日23日のヤクルト戦ではベンチメンバーから外れた右腕だけど、1点勝負が予想されたこの日はスタンバイ。根尾の登板機会はここまで試合の決した局面に限られていたけれど、きょうから僅差でもいくよ-そんな話が直々に竜将からあったのかどうか。

 それにしても、この夜の立浪野球にはいくつか驚かされた。スタメンオーダーもそう。同点打を含む複数安打で期待に応えた石岡諒太は、この日昇格したばかり。神戸出身(神戸国際大付)の石岡は今季ウエスタン・リーグの首位打者。2軍監督・片岡篤史の推薦もあったのだろうけど、プロでまだ打点のない打者を青柳相手に「3番」で起用するあたりも、僕からすれば、型にはまらない用兵に映る。まずもって4番の打席で挑んだ初回のホームスチールなんて、まるで新庄劇場である。

 新庄といえば、立浪政権はとかくそれと比較されがちだ。ビッグボスが型にはまらない自由なスタイルなら、秩序を重んじる立浪のは真逆…そんな声だけど、僕はそうは感じないし、どちらが好みか問われれば、個人的には立浪推し…。バッテリーコーチ西山秀二に聞けば「凄くやりやすい環境を作ってくれる」リーダーだという。

 チームの「職場環境」がグラウンドに表れるのがプロ野球。根尾の投手転向なんて、まさにイノベーション。そう思って取材すると中日の球団関係者は言う。

 「ほかの人ならなかなか決断できていないと思います。監督が落合(英二)ヘッドを信頼しているからかもしれませんが(根尾の投手転向は)思いつきではなく、キャンプから少しづつ準備していたことですから。監督はいろんな意見を柔軟に取り入れますしね」

 なるほど。そういえば、これは余談だけど、テレ朝の情報番組で元ゴールドマン・サックス金融調査室長のデービッド・アトキンソンが、日本社会の職場環境についてこんなふうに指摘していた。

 「失敗すれば悪評になるから、(社員は)無難にリスクをとらないやり方でやっていく。マニュアル通り、事なかれ主義でやっていく。そんな企業でイノベーションが起こるはずもないし、そこに競争力なんて生まれるはずがない」

 スイスの有力ビジネススクール「IMD」が発表した「世界競争力ランキング」によれば、日本はこの30年間で1位から34位まで後退したという。どう仕事をすれば減点されないか。どうすれば上の人間に気に入られるか。そんな空気が支配する組織では、競争力、創造力など生まれない-アトキンソンはそう語っていた。

 最下位を争う立浪竜を見ながら思う。今は苦しい両軍だけど、内側からイノベーションが湧き出る球団でありたい。=敬称略=

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