自分にしかない何か

 【7月19日】

 テレビ東京の女性が興味深い質問をしていた。夕方5時から始まった羽生結弦の記者会見である。社会のトップニュースで扱われる一大イベントにおいて僕の琴線に触れる問い掛けだった。

 「社会の中でも羽生選手の言動がものすごく影響を与え、色んな人を喜ばせていると思うんですけど、アスリート界でここまでの存在になる方(かた)って、限られた方だと思います。そこまでになれた、自分にしかなかった何か…特長だったりとか、自分の中でもっているものはありますか?」

 野球界オンリーの取材で毎日を過ごす筆者にとっても、このスーパースターは半端なく関心の対象である。だから会見を一言一句逃さなかったつもりだけど、羽生が競技会に出るとか出ないとか、今後あゆむ道がどうとか以上にこの問いはスッと入ってきたし、一番耳を傾けたアンサーだった。

 「自分でそういう実感がないので分からないんですけど、今ここにいる羽生結弦としては、客観視して、すごく遠くから見て自分がどういう存在かというと…たくさん応援していただけるからこそ、ここにいるんだなと思う。別に羽生結弦が何かを持っているからだとか、僕自身が何かをしてきたからとかそういうんじゃなくて…」

 羽生はそんなふうに語り、続けてこう答えた。

 「運のいい人間だと思う…」

 運…か。誰かが引退するときにも聞いた台詞である。

 この会見の模様を背筋を伸ばして聞いた知人がいる。羽生とアドバイザリー契約を結ぶファイテン社の社長室室長・相澤尚彦だ。相澤と親交をもつようになったのは金本知憲が同社と契約してから。懐かしい話だが、金本が初めて出演したテレビCMは、同社が「日本全国鉄人化計画」をキャッチフレーズに掲げた栄養ドリンクのそれだった。金本が39歳のシーズンに同CMが流れ、全国のファイテンショップで「鉄人化計画」のキャンペーンが行われたわけだけどその時、仙台店を訪れた12歳のファイテン愛用者が羽生だった。

 君はどんな鉄人になりたい?

 同店のメッセージカードに「ジャンプとスピンの鉄人!」と答えた少年が、のちにファイテンのネックレスを着けて五輪を連覇。唯一無二の存在として、今、全国民が注目する新たなチャレンジの舞台に立つ。8年前に羽生と待望の契約を結んだファイテン社長の平田好宏も感無量に違いない。

 ファイテンといえば、今年契約を結んだ阪神の選手がいる。

 その人、佐藤輝明はいわば羽生と同じく、アスリート界で唯一無二の存在を目指せる希少な選手だと皆が感じている。

 2年目ではや阪神の4番にすわる輝だけど、エラそうに書かせてもらうならば、関西のスターにとどまる器じゃない。自身を俯瞰しどう語るのか聞きたい数少ないアスリートである。引退時に「運が良かった」と語ったのは金本だけど、さて、輝はどうか。羽生の会見を聞きながらふと思った。=敬称略=

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