浜田へ帰ってこいよ

 【7月28日】

 灼熱のバックネット裏に懐かしい顔があった。第104回の甲子園大会を目指す島根大会の決勝戦で浜田が優勝を決めると、矢野阪神でヘッドコーチを担った男は、晴れやかに好天の空を見上げた。

 清水雅治である。

 現侍ジャパンのコーチが、なぜいま松江の野球場にいるのか。ご存じの方もいるかもしれないが、清水は今春から母校浜田高の野球部で特別顧問を務めている。

 「久しぶりだね。風さん、元気にしてるの?」

 阪神コーチ時代はお世話になった。昨季限りで阪神を退団し、その後、故郷へ帰られたこと、そして、母校で指導されていること…全て存じあげていたけれど、なかなか連絡できずにいた。

 こうやってお話できたのも何かの縁。というか…清水さん、指導に就かれてその夏に甲子園出場。しかも、18年ぶり。すごい…。

 「亡くなった恩師が我々に力をくれたのかなと思っているよ」

 清水が高校3年時の監督だった郭世香(こう・せいか)浜田高総監督が昨年2月に急逝した。清水が母校へ帰ったのは、実は、郭総監督の一本の電話が発端だった。

 「お前、ジャパンしかやらんのか?浜田へ帰ってこいよ」

 昨年末、清水の阪神退団を知った恩師から誘いを受けた。が、清水は、自身が母校で貢献できることは何か自問し、即答を避けた。

 「俺は浜田で1年の夏、2年の夏、3年の春にも甲子園に出たんだけど…郭さんが監督になられてすぐの3年の夏に県予選の初戦で負けてしまったんだよ。あの時の申し訳ない思いは今もある。郭さんの『帰ってこいよ』という言葉がずっと胸に残っててね…」

 恩返しを決意し学生野球資格回復制度の認定を2月に受けた清水は、これも亡き恩師との縁で島根野球界の重鎮と出会うことに…。

 「郭さんの告別式で開星高校の野々村監督と初めてお会いしてね…。名刺交換をさせてもらって、練習試合を申し込んだんだよ。そうしたら快諾していただいて…うれしかった。2試合やらせてもらって2試合とも開星さんに負けたんだけど、強いチームとやって負けて学びたかったから、すごく勉強になったし、野々村監督さんには本当に感謝してるんだよ」

 この日の決勝戦を迎える前、清水が浜田の選手たちに伝えた言葉があった。浜田と反対側のブロックで勝ち進んでいた開星は準決勝でサヨナラ負け。勝利目前の最終回にエラーが出たことに触れ…。

 「俺は楽しみにしてるんだ。開星高校のエラーをしたあの子の人生を…。代償としては凄く痛かっただろうし、今も辛いと思う。でも、頑張ってほしい。やってしまったことはもう戻ってこない。この次…。次に彼がこれを活かしてくれたらそれは凄いことなんだ。俺も山ほど失敗してきた。野球をしていれば数え切れない失敗はある。大切なのはその後なんだ」

 この言葉に真剣に耳を傾けた浜田ナインが甲子園へやってくる。清水は亡き恩人とともにかつての本拠で夢を追う。=敬称略=

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