また這い上がっていく

 【8月1日】

 ショッキングだった。J1横浜Mが先週、日本代表FW宮市亮が右膝前十字靱帯断裂と診断されたと発表した。サッカーの神様っていないのか。今回だけの話ではない。もう何度もそう思った。

 阪神を応援する当欄の読者で、宮市の名を知る方もいらっしゃると思う。彼が10代で天才と呼ばれたから、そして何よりも、若きサッカー界の至宝が大の虎党だったから…である。

 宮市は中京大中京高からイングランドプレミアリーグの名門アーセナルに入団し、19歳で日本代表デビューを果たした。僕が宮市を初めて取材したのがこの頃だ。

 阪神タイガースのファン?

 「はい、そうなんです。赤星選手と桧山選手が好きで、父とよく甲子園へ行っていました」

 こんなやりとりが、侍ブルーの取材現場、埼玉スタジアムで叶うなんて夢にも思わなかった。こうなれば仕事度外視!さっそく連絡をとったのはもちろん…

 赤星憲広「え??あの宮市君が僕のファンなんですか?全然、知らなかったですけど、めちゃくちゃうれしいです。あのドリブルのスピードは、僕もファンですし、宮市君のスピードを日本のファンの人たちに思う存分アピールしてほしい。ずっと応援してますよ」

 桧山進次郎「宮市君が阪神ファンということも知らなかったよ。10代の若い才能に、僕なんかがファンでいてもらえるなんてありがたい。この前のオマーン戦(W杯予選)も前半は見たんだよ。W杯での出場が楽しみだよね」

 宮市に2人からのメッセージを伝えると、「本当ですか?すごくうれしいです!」と、イケメンの頬が緩んだことをきのうのことのように思い出す。

 あれからもう10年になる。

 サッカー担当を離れてからもずっと応援していたけれど、宮市のキャリアはケガとの戦いだった。15年に左膝前十字靱帯、17年には右膝前十字靱帯を断裂し、手術。18年にも右膝前十字靱帯を損傷。快足が過ぎて肉体がついていかないのか…そんな話すら聞こえてくるほどだった。本人は何度も壁を乗り越え再起を果たし、昨夏、横浜Mへ入団。待望の代表復帰を果たした矢先に再び右膝前十字靱帯断裂…信じたくない重傷だった。

 「もう現役を終えよう」。今回ケガの直後、宮市はそう思ったという。それでも、彼を救ったのは数え切れないファンの声だった。

 「そのメッセージを重荷に感じたわけではなく、心から嬉しかった。多分、自分は、やっぱりサッカーがやりたいんだなと、そのとき思い知らされました。サッカーが大好きだと。だからまた、這い上がっていこうと思います」(宮市亮のインスタグラムより)

 「フィールドで戦える体」があることがどれだけ幸せか。取材してきたアスリートの中では、その尊さを最も知る男かもしれない。 宮市はきっと今年もプロ野球を見ている。ここまで這い上がってきた阪神に勇気づけられたと思うし、ここから這い上がる阪神にまた力をもらうと思う。=敬称略=

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