木浪聖也の0・1ミリ
【3月5日】
甲子園歴史館へ行ってきた。旧知の同僚から連絡があり「行くで」というので、楽天とのオープン戦も雨天中止になったことだし…。リニューアル後は初めてだけど、これが楽しかった。
「木浪選手も来られましたよ」
CGのバーチャルバッティングセンターを「ほ~っ」と眺めていると、同館のスタッフが教えてくれた。
そういえば、昨年暮れに木浪がここでトークショーをやっていたのを思い出した。しかし、まあ、よくできたCGだし、球速もごっつい。それにあの時はたしかスーツ姿…。
で、木浪選手は打ててました?
「はい。しっかり」
当然とばかり、スタッフがスマイルで「うん、うん」と。そりゃそうか。オフとはいえ、Vメンバーのレギュラーがバッセンで屈するわけもなく…。
「風も打てば?」
同僚から勧められたが、いやいや、マイバットちゃうから…。なんて冗談だけど、バッセンといえば、もちろん金属バット。さすがに木製は頻繁に折れたら困るので。というか、そうか。木浪は金属音を響かせて打ったのか。となると、ん?青森山田以来?そんなことを想像しながら、館内をじっくり猛虎史を堪能させてもらった。
野球の記念館、歴史館で必ず目にするのが、名プレーヤーのメモリアルバットである。23年Vのコーナーには、日本シリーズ第7戦で決勝3ランを放ったS・ノイジーのバットが飾られていたり。ここにバットを寄贈するようなスラッガーになりたい。一々口にする類いでもないだろうけど、そうなればプロ野球選手冥利に尽きる。
甲子園の室内練習場を覗けば、やはりマスコットバットでボールを叩いていたこの日の木浪聖也である。
沖縄キャンプ中、木浪のバッティング練習をずっと観察すれば、ほぼほぼマスコットでボールを叩く。彼の場合、試合では平均885グラムを使用し、練習では約900グラムのそれを多用する。
「マスコットは気持ち重いくらいのバットなんですけど、あれでバッティング練習をしていたほうがしっくりくる感じがあるんですよ。昨年からずっとなんですけど、練習では極力、普通のバットで打ちたくないんです」
新シーズンも「不動の8番」を任されたいバットマンは感覚にこだわる。
ルーキーイヤーの19年に開幕スタメンを勝ち取った木浪だけど、翌年から3シーズン苦しんだ。バットの形状でいえば、ファーム暮らしの時期はいったりきたりで、試行錯誤しながら一昨年の秋に定着。85・5センチ、885グラムの相棒でレギュラーを掴み、日本一に貢献した。ただ、昨年の秋はスラッガー社の担当者に「グリップを気持ち細くしたいんです」と打ち明け、0・1ミリ程度グリップを削ったバットでV戦線の最終コーナーを駆け抜けた。
CSファイナルSでは第2戦でサヨナラ打を放つなど、3戦計10打数5安打(・500)。CS最優秀選手賞を受賞した。0・1ミリ、その微かな感触を今年も大切にしながら、木浪は開幕へ照準を合わせる。=敬称略=