一ファンとしての開幕戦
【3月29日】
バックネット裏の放送席から聞こえてきた。「先発は2年連続開幕投手に指名された青柳であります」。ん?それはフェイク実況だよな…なんて難癖をつけたくなった開幕戦である。
青柳晃洋が大役に「指名」されたのは、ご存じ「3年連続」である。
初めて開幕投手に指名された22年は新型コロナウイルス感染で泣く泣く断念を余儀なくされた。悔しかった。忸怩たる思い…。が、考えてみれば、誰も悪くない感染症である。ただ運気が青柳にソッポを向いただけ…。隔離され、部屋に閉じこもっている間に矢野燿大率いる虎は負け続けた。
気づけば開幕から9連敗。
「試合を見ていても、つまんなかったですよ、やっぱり…」
青柳は当時をそう振り返る。
勝てないゲームを「おもしれぇ」なんて思うはずはない。
やはり、今でもあの感染を恨んでいるのか。そう問えば、首を横に振る。
「僕の中ではあれ(コロナ感染)はプラスだったなと思います」
よーいどんで背負うことになった9つの負債。あの悪夢の4月、静養期間を経てチーム本隊へ戻ると、「お通夜みたいなベンチ」が待っていた。
「つまんねぇ野球してる」
青柳の偽らざるホンネだった…。
さて、さて、何だか、ワクワク、ドキドキの野球してるじゃねえか。
岡田彰布から2年連続で開幕投手を任された青柳である。
三回裏。2死満塁のピンチで打席に梶谷隆幸を迎えると、対戦成績・520のこの天敵をカットボールで粉砕。表の攻撃で森下翔太の〈先制打〉をスーパープレーでかき消した男を2打席連続で三振に斬ってとった。青柳は坂本誠志郎を指さし、少しだけはにかんだ。が、これで流れを奪えないのがドラマチックな伝統の一戦である。五回、その梶谷に「ベストボール」(青柳談)を2ラン被弾。今度は汗を拭いながら何やらマウンドで呟いた。
日本シリーズ第7戦からの「連投」となったマウンドは5回3失点。ビハインドでブルペン陣に託す形になったのは、もちろん不本意-。
「あのとき、一ファンとして試合を見ることができたんですよね。そのとき思ったのは、つまんねぇなって思うような野球はしちゃいけないなって」
2年前、コロナ禍の憂いをプラスに変え、投手3冠に輝いた。ファン目線を体感したエースは「あの期間はすごく勉強になった」という。
「やっている側では気づかないようなことが見えたので…」
この夜、青柳は自身の91球を俯瞰していた。「打たれた僕の実力不足」。そう語ったが、一ファン、もうひとりの自分は、東京ドームのマウンドに立つ背番号17をどう見たのか。少し時間が経てば、また聞いてみたい。
「山あり、谷ありのシーズンになると思うけど…」
開幕戦の出陣式で岡田彰布は選手たちにそう語りかけた。エースに託した143分の1をどう活かすか。つまんねぇ野球なんてできない。=敬称略=