百年目の甲子園を味方に

 【4月9日】

 阪神今津駅の北側、鳴尾御影線に警察官が7人立っていた。電車を乗り継ぎ甲子園へ向かう道すがらである。昼間から物騒だなと思いながら、この日早朝のネットニュースを思い出した。

 午前6時ごろ兵庫県芦屋市で男性が見知らぬ男に刃物のようなもので刺され、病院へ搬送された。犯人はカバンを奪って逃走中-。犯行現場は甲子園から目と鼻の先の阪神沿線。記念すべき「甲子園球場100周年」の開幕戦に水を差された気分になる。日常生活でどれだけ注意を払っても防ぎようのない事件。被害者の無事を祈るばかりだけど、やるせない。

 気を取り直し、カープ戦を取材すれば、雨上がりの夜空は気まぐれな風が舞っていた。試合前は普段の浜風とは違う本塁からセンターへのフォロー。試合が始まると、バックスクリーンではためく日本一のチャンピオンフラッグが右へ左へ…。内外野の守備を眺めれば、グラウンドコンディションは土も芝も勝手が違うように映る。

 とくに高校野球では「魔物がすむ」といわれる聖地である。このメモリアルイヤーのホームグラウンドをいかに味方につけられるか。そんな視点でゲームを追った。

 東京ドーム-京セラドーム-神宮。

開幕から人工芝で3カード戦えば、僕なんかは土の薫りが恋しくなるものだけど、選手はどうか。

 「アンテナを張っておかないといけないと思います。ずっと人工芝が続いていた中で土というのは独特なものがありますから、やっぱり足を使わないと。いかにバウンドを少なくして捕球するか。バウンドが増えれば増えるほど難しくなる。人工芝の場合はだいたい予測できる。『2バウンド目で捕れる』とか。でも土の場合は沈んでバウンドが増えるかもしれない。ある程度しっかり距離をつめないといけない」

 内野守備走塁コーチの藤本敦士が自身の現役時代の経験を踏まえながら、甲子園オリジナルのトリセツをそんなふうに教えてくれた。

 「野球は守りよ」

 岡田彰布がそう語るのはもちろん、甲子園を本拠に戦うがゆえ。先発村上頌樹について指揮官は「二回のゲッツーが大きかった」と言った。難しいコンディションでバックが堅守でもり立てる。この夜、阪神の内野手がさばいたゴロは8つ。佐藤輝明が一瞬はじいた打球もあったが、各々が足を使い、記者席からでは分かりづらい雨上がり特有のバウンドにうまく対応した。

 1-0。完封。無失策。100周年の開幕にふさわしい勝利じゃないか。しかし、敵ながら天晴れと思わせるのは、カープのショート矢野雅哉の守備範囲だ。敵陣のヘッドコーチ藤井彰人によれば、矢野は打者がバットに当てる直前に一歩目を出すという。初回、森下翔太の二遊間への打球も素晴らしい反応だった。ヒット性を防げる局面が広がる「菊池-矢野」の二遊間は脅威になる。

 朝の憂鬱は晴れない。が、甲子園100年を彩った両軍一流の矜持に心は救われる。=敬称略=

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