もっとあれがほしい…
【7月2日】
う、うまいな…。マツダスタジアムの記者席で思わず唸ってしまった。七回、大山悠輔が放った三遊間への深い打球をさばいたカープ遊撃手の守り。Hランプをかき消す美技だった。
三回にも近本光司が放った三遊間へのゴロを封じられた。俊足の一塁駆け抜けが早かったようにも見えたが、リプレー検証でセーフ判定が覆った。
守備範囲。捕ってからの速さ。送球の正確性。強肩…。敵ながら、いつも感心させられる。
矢野雅哉である。
名手菊池涼介も一目置く25歳の守備力だけど、ヘッドコーチ藤井彰人は矢野にこんなふう言ったという。
「お前、源田と何が変わるん?」
これはつまり、守備力では日本一のショートと遜色ないレベルまできてるんちゃうか-という意。本人に自信を持たせる意図もあったようだが、毎回広島戦でこんな好守を見せられると、確かに、矢野と源田壮亮を比べたくもなってしまう。
経験値含め、選手としての総合力でまだ源田に及ばない。が、今季ここまで矢野と源田の打率は変わらない。攻守で矢野が洗練されれば…藤井はそんな期待感を持っているようだ。
投手戦になる週アタマの火曜日。才木浩人と森下暢仁の投げ合いは見応えがあったし、だからこそ、双方のディフェンス合戦も見ものだった。
二回は小園海斗のボテボテの投ゴロを才木が一塁へ悪送球し、無死三塁のピンチを招いたが、これは才木が自ら鎮火。両軍野手の堅守も光り、最終盤まで0が並ぶ締まった展開になった。
当欄は何度か矢野の話を書いてきたが、阪神にも、ご存じ、日本一のショートを目指す若き才がある。木浪聖也が故障離脱する中、岡田彰布は公式打順表に毎日「背番号38」を記す。
「まあ、チャンスよ」
木浪の出場選手登録が抹消された6月半ば、指揮官はそう言った。もちろん「小幡竜平にとって」である。
そのあたりをヘッドコーチ平田勝男に聞いてみると、期待するからこそ、もどかしさも口をついて出てくる。
「落ち着いて堂々とやればいい。今は打てなければ聖也に代えられるという状況ではないんだからね。もっと、あれがほしい…。去年はいい成績を残したんだから。まだまだ」
小幡が決勝のホームを踏んだ夜である。延長十回に四球で出塁し、島田海吏への3球目にスタート。相手失策を呼びこむ値千金のベースランだった。八回にも先頭でヒットを放ち、快足でベースを駆けた。平田のいう「あれ」…持ち味を見せた。
現役時代、守備の要で85年の日本一に貢献した平田である。
若き時代、正遊撃手に抜擢された心境はどうだったのか?気負いは?
「『ずっと1軍半かな』というところから思わぬ形で回ってきてね。うれしかった。試合に出られるという…。プロ野球選手って皆そうだと思うよ」
喜びを進化に変える。若き両軍のショートストップ。そのマッチアップが楽しみな3連戦である。=敬称略=