夜中の鳴尾に響いたグラブ音

 【9月2日】

 夜11時過ぎの鳴尾浜に打撃マシンの機械音が響いていた。静まりかえった室内練習場で、しかし、バットが奏でる打球音がしない。響き渡ったのは、幾度もグラブでボールをさばく…。

 音の主は、山田脩也だった。

 甲子園で伝統の一戦が行われた日曜の夜、阪神のファームはほっともっとフィールド神戸でオリックスと戦っていた。先発した青柳晃洋が予定の4イニングを無失点に抑え、チームも3-0で勝利したウエスタンのゲーム。攻撃面で光ったのは、3安打した栄枝裕貴、そしてマルチ安打の山田。

 ええやん。来年もしかしたら表舞台で彼らが躍動する姿を!なんて妄想も膨らんだが…。

 山田が2安打の感慨に浸ることはなかったようだ。神戸でナイターを終えチームバスで鳴尾浜の寮へ帰ると、彼はすぐ室内練習場にこもった。

 自ら工夫し、ゴロが転がるように打撃マシンを設定。ひとりで黙々と「特守」をやっていたのだ。

 僕もこの世界で長いこと取材しているけれど、そんな練習風景はなかなか…。

 もっと守備レンをしたい。打球を受けたい。でも、コーチが24時間そばにいるわけではない。そんなときに同僚や裏方さんにショートノックを打ってもらう選手はよく見た。でも、打撃マシンでゴロを受けるのは…。記憶の限り初めて聞いた。

 山田は日曜のオリックス戦で一つエラーをしていた。ファーム監督の和田豊は「今はもう打ってもやられても、捕ってもエラーしても勉強だと思うんでね。とにかく思い切ってやってほしい」と話していたが、取材の限り、山田は悠長に構えるタイプではない。

 高卒2~3年目まではゆっくり…なんて微塵も考えていないのだろう。

 ファーム関係者に聞けば、山田は見た目「サラッとやる」タイプ。クールにも映る。だが、反骨心は人一倍、いや、三倍。そんな19歳なんだとか。

 ファームを預かる和田は前川右京の練習姿を眺めて「あいつは野武士みたい」と語ったことがあったが、今度取材したときに、山田のそれはどんなふうに映るのか聞いてみようと思う。

 夜中の鳴尾浜でルーキーが特守。

 メディアが立ち入れない時間帯なので、複数の関係者の証言を聞いてこれを書いている。その中の一人が「あいつはひとりで考えてやれる選手」と語っていた。

 鳥谷敬、木浪聖也…阪神でレギュラーを獲ったショートストップはそういうタイプが多いが、山田もそうか。

 あの夜、山田が何時まで捕球を反復していたのか分からない。つまり、誰もそのフィニッシュを見ていないので知りようがない。練習は数がものをいうこともある。かつて、未明までバント練習していた若虎を知っている。僕が見ていないだけで、山田に限らず、今もそんな選手がいるかもしれない。

 どんな一流でもミスはする。それを取り返すための手段をどんなふうに考え、行動するか。19歳のそれはインパクトがあった。     =敬称略=

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