運のいい人の法則
【9月29日】
ワケあって実家で父の書斎を片付けていると、文庫、新書、ハードカバーなど書籍の数は万を超えた。これだけ整えればイヤになりそうなものだが、読み物への欲求が増すから不思議だ。
読書の秋。「朝読」してから甲子園のDeNA戦へ向かった。ベンチ裏の通路で今岡真訪に声を掛けると、彼の相好はいつもと変わらなかった。鷹揚自若。ときに「無感情?」と勘違いされたりするけれど、プライベートではよく笑うし、感情豊かな男だ。
混戦の長丁場を戦ってきた。疲労は大丈夫?
「きのうが一区切りでしたから」
打撃コーチは表情を変えずそう言って、クラブハウスへ引き揚げた。
実を言えば、このタイミングで連覇を逸したチームを取材するのは想定外だった。当欄は毎月末に翌月の掲載日をあらかじめ決めるわけだが、勝手に100周年甲子園のラストゲームで連覇を決める「予見」をしていた。だから前夜、神宮球場のヤクルト戦を休載にしたわけだけど、うまくいかない。
なんで自信満々に「連覇」を決めつけたのかって?そりゃ、ポジティブな想定はほぼうまくいくから…なんて書けば、ノー天気なヤツだなと思われるかもだけど、ホントだから仕方ない。岡田彰布、そして、このメンバーの強運ならいける。そう思っていた。
V逸の神宮で取材していた他社の同期から「現場で会わへんな」とLINEをもらったが、その彼も記者席に座っているだけが取材じゃないことをよく分かっている。神出鬼没。よく言われるが、僕にとっては褒め言葉。先日は休載日に鳴尾浜のラストゲームに見入りながらファーム関係者に主力選手の深掘り取材をさせてもらった。ここ数年で一番取材した一年。もちろん、「連覇原稿のため」である。
さっき「強運」と書いたが、それも僕なりの根拠が…。
読書の秋に夢中になっている書見がある。心理学者リチャード・ワイズマンの著書『運のいい人の法則』(角川文庫)。ワイズマンといえば「運」を科学的に研究した博士で、10余年かけた調査で導いた「運のいい人に共通する法則」にたどり着いた。例えば…
「銀行強盗に遭い、腕を撃たれた。運がいいか?悪いのか?」
ある人は「運が悪いに決まっているだろ」と答え、またある人は「運が良かった。頭だと即死だった」と返す。
「運のいい人」は後者の思考ができる。ワイズマンは長年の調査で「運」は考え方と行動で変えられることを著書で明らかにしている。
阪神球団社長の粟井一夫はV逸の28日、報道陣の前で「結果が全て」と強調した。指揮官も社長も2位や3位で「結果を出した」とはもちろん考えていない。そういえば、いつだったか、粟井は当方との雑談の中で「色々あるほうが、何もないより楽しい」と語っていたことがある。取材の限り阪神の主力はこの思考ができる選手が多い。そんなハナシをV原稿で書くつもりだった…いや、まだ過去形にしない。=敬称略=