青木宣親の心を届ける
【10月3日】
青木宣親の引退試合を観戦した。前夜(2日)のことだ。夕方までに仕事を済ませ、完全にプライベートで神宮球場へ。ヒットメーカーのラストダンスを目に焼きつけた。
NPBで唯一年間200安打を2度達成したスラッガーへのリスペクトは尽きない。日米通算打率3割超えなど半端ない足跡はもちろんだけど、僕が青木に特別に敬意を表すのはその真摯な人柄ゆえである。
縁あって青木家にお世話になり10余年経つだろうか。MLB時代も併せ、毎年自主トレにお邪魔しては話を聞かせてもらった。深掘りで前置きの長い質問になってもイヤな顔一つせず、答えを探して真剣に向き合ってくれた。沖縄で「チーム青木」が始動したある年は「昼メシジャンケン」に混ぜてもらい、地産のハンバーガーをご馳走になったり。思い出はいっぱい…。
「引退発表後、各球団の方々の心温まるセレモニー、本当にうれしかったです。出会いは何事にも代えがたい大切な宝物です」
青木の引退スピーチを聞きながらもらい泣きしてしまった。甲子園でのささやかなセレモニーでは早大の大先輩岡田彰布と肩を組んで記念撮影…。あの写真は「一生の宝物」だという。
虎のシーズン最終戦でなぜこれを書くのか。現役最終打席で二塁打を放った青木を見て思い出したからである。
「二塁打を打てるバッターを目指してきました」。MLB時代、僕にそう話した青木に今年こんな問いかけをしてみた。かつて赤星憲広が「近本は青木のような選手になって…」と話したことがあるのだけど、どう思う?
「僕とは少し違うと思いますけど」と前置きしつつ、青木は語った。
「今の時代だから余計に長打がほしいと彼も思っているんじゃないかな。自分の価値を高めていくには、ヒットも大事だけど、ホームランじゃなくても長打を打つことは大事なことだし。近本は足があるから、ヒットイコール二塁打と言う考え方もあるけど、今はキャッチャーの肩も強いし、ピッチャーはクイックができて球も速いからそう簡単には盗塁できなくなってきているから…。そうなると、ランナー一塁から長打で1点という野球が増えているし、長打を打てるような選手になるとまた、チームにも強い影響を与えられる選手になっていきますよね」
イチローが「同じ時代に同じ条件で(青木と)勝負していたら…」と語ったように、青木もまた今季最多安打争いした近本に温かい眼差しを向ける。
「今のカタチでやっていけば、そういうカタチになると思うし…。甲子園球場が本拠地だとなかなかホームランも難しい。そんな中でも立派な成績を残しているし、成長しているのが見えますよね。年数とともに結果を残しながら、自分を少しずつ変化させているような気がします。あちこち痛いながらに試合に出ているんだろうけど、そんな中でも打ち続けたり、出続けるというのもまた、いい選手の条件だと思うし、そういう姿が見えますから」
青木の心をここに記す。=敬称略=