取り乱さない「強さ」

 【11月8日】

 ハマの番長が「正力松太郎賞」を受賞した。DeNA監督としてチームを26年ぶりの日本一に導いた手腕が評価された栄誉だが、三浦大輔といえば僕と同郷、奈良出身。何だか誇らしい。

 同郷の誼で数年前に一度、横浜の中華街でご一緒したことがある。番長はまだ現役で試合後の夜テーブルを囲んだわけだけど、噂通り、髪形はめちゃくちゃ決まっていた。でも、一番驚いたのは黒髪のリーゼントではなく、内面。その夜が初対面だったが、それはもう謙虚。物腰は柔らかいし、まったく偉ぶるところがなかった。

 将来必ず指揮官になる器。当時の球団関係者からそう聞いていたので、4年前の監督就任は既定路線だと思ったし、当時FAの梶谷隆幸、井納翔一が抜けたチームを預かるマネジメントが楽しみでもあった。

 「取り乱さない人ですよ」

 この日の朝、「鳴尾浜キャンプ」を取材しながら「三浦大輔の人となり」を知る阪神関係者を探していたら目の前に…ファーム内野守備走塁コーチの山崎憲晴である。

 山崎といえば、9年間横浜で現役時代の番長と同じ時を過ごし、遊撃のポジションから幾度となくハマのエースナンバー「18」の背中を眺めた男だ。

 「平常心を崩さないですし、カッとすることもないですし…。嫌なことも顔に出さないし、人の文句や悪口も言わない。まず、僕は三浦さんが怒ったところを見たことがないです」

 そんな証言を聞けば、下克上日本一の手腕はもちろんのこと、「プロ野球の発展に最も貢献した野球人に贈られる賞」にふさわしい人格とも言える。

 プロ野球の監督を取材するにあたり「リーダーの資質とは…」といった類いの本を何冊か読んだことがある。近々売れ筋になる本はおそらく「ドナルド・トランプ」関連のそれだろう。

 この度の米大統領選挙で「アメリカ人は『強いリーダー』を欲しがった」なんてCNNのニュースで言われていたけれど、「強さ」の定義は様々。政治に限らず、どんなフィールドであろうと、「取り乱さない」リーダーが最強では??と、個人的には思ったり。

 野球もそうだ。横浜時代の山崎は番長の先発試合で何度かミスをしたことがあったそうだが、エースはその度に「優しかった」という。当人は意図的に「優しさ」を醸し出しているわけではないと思う。が、マネジメントとして、怒りを露わにするより取り乱さない所作は正解であり、だからこそ今度は優しくされた側がこの人の為に…と精魂込めて御返しを尽くすのだ。

 そういえば、藤川球児というクローザーもそうだった。どんな守備の乱れがあろうが、不動。マウンドを蹴り上げたり、ミスした野手を一瞥したりする態度を一度も見たことがない。

 虎の将がすっかり板についてきた球児はこの日、安芸で「補強」の話題を振られ、こんな風に言ったそうだ。

 「今いるウチの選手に対する自信がありますから」

 リーダーの資質…。「強さ」を感じる。=敬称略=

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