心がえぐられるもの…
【12月6日】
中山美穂が亡くなった。ショック…いや、それらしい言葉が何も見つからない。実は、きょうは前川右京のコラムを書こうと思っていたのだけど、さすがにこの悲報を横に置いては…。
54歳…。なんで?
何があった?
様々報じられているが、臆測でああだこうだ書けない。
僕より少し歳上だけど、アイドル女優の先駆者、世代のヒロインだった。
「ミポリンに似てる」-80~90年代の若い女性にとってこれが最上級の褒め言葉。かわいい、とも違う。いやらしくない躍然たる色気とでもいおうか…。一方で、ほかのアイドルとは一線を画した陰の気もあったり、不思議な魅力を醸し出す女性だった。
この世界で働くようになって芸能の現場で取材も経験したけれど、一度もお目にかかれなかった。画面の奥で記憶にあるのは東京ドームでの始球式。膝上のスカートに巨人軍のジャンパーをはおって…ミポリンが「アイドル始球式」の先駈けにもなったのだ。
02年に結婚して、パリに住み、子を授かり…。皆さんも知るそんな情報だけは見聞きしていた。最近は時々インスタグラムをチェックしたり、彼女が頑張っている姿を年に何度か見かけては、うれしくなったり。でも、今どんな夢を描き活動しているのか知ることもなく、突然こんなニュースを目にすることになってしまった。
たまたま、きのう彼女のインスタを見れば、六本木の森美術館で開催されているフランスの芸術家ルイーズ・ブルジョワの個展に行ってきた旨を投稿していた。そのタイトルは…
『地獄から帰ってきたところ 言っとくけど、素晴らしかったわ』-。
これを見てゾクゾクしたが、ミポリンは自ら撮った写真とともに「2、3日心がえぐられて、一緒に行った友としか会話が出来なかった。写真下手だけど、上手くてもなんにも表現できない」と投稿し、これがファンへ向けた最後のメッセージになった。
絵画や彫刻、美術の世界に疎い僕はこの芸術家をよく知らなかったし、だからどんなふうに揺さぶられたのか、想像もつかない。
自分なりに「お悔やみ」を綴ろうと書き始めたけれど、取り留めもない筆にしかなっていない。あえて書きたくなったのは、中山美穂という俳優の感性、感受性が羨ましい…ということ。
どんな分野でもいい。何か作品に触れて、見て、聞いて、心をえぐられたことがあるか?と自問してみたが、過去に一度もない。物書きにとってそれがないことは致命的だと思っているし、だからこの投稿が、これから先を生きていく中で「心えぐられるもの」に出逢いたいとも思わせてくれた。
ミポリンの長男は03年生まれだと聞いたことがあった。そうか…プロ野球の世界でいえば、前川右京と同い歳なのか。『世界中の誰よりきっと』を聴きながらPCと向き合い、トシを感じる。30年経っても色褪せない、心震える旋律に感謝。どうぞ、安らかに…。=敬称略=