ぼーっと生きられない世界

 【4月21日】

 28歳、おめでとう。でも、ゴメンなさいね。あなたの一発はいつだって笑って祝えないのだ。阪神の盤石投手陣がまさかの16失点。敵軍の火付け役はバースデー弾の牧秀悟に違いない。

 連勝中の猛虎は藤川球児の監督100勝へ向け幸先よく3点を先制した。「楽勝かな…」と思っていたら、ややこしくしたのは三回裏の2ランだ。ライトスタンドが合唱した初回のバースデーソングは思わず口ずさんだが、やめときゃよかった。終わってみれば互いに14安打。ダイヤモンドがめまぐるしい4時間21分だった。

 誕生日といえば、藤浪晋太郎が12日に32歳の誕生日を迎え、自身のインスタグラムを更新していた。

 「月日の流れが加速度的にはやくなるのをひしひしと感じる年齢になってきて、『ぼーっと生きてたら、すぐ歳老いるんやろなぁ』なんて考える今日この頃」

 実に晋太郎らしい文面だし、こちらは素直に祝いたくなるけれど、彼の言葉で刺さるのは「ぼーっと生きてたら…」のくだりである。元来思慮深い人なのでその心配はなさそうだけど、晋太郎のいないこの夜のゲームを振り返ればあらためて思う。

 野球は身体的なポテンシャルだけでは到底戦えない競技だなあ、と。

 概して、打者が10度のうち7度凡退する中で両軍これだけ点が入るのは、個々が準備と予測を怠らず、チームと連動して最善を尽くすからにほかならない。ベンチから1球ごとにサインが出る稀有なスポーツだけど、プレーヤーの思慮深さがなければとても相手を凌駕できない。

 失策や記録にあらわれないミスもあったけれど、一方でワクワクするプレー、うなるシーンもいくつかあった。

 序盤でいえば二回、「単打で一塁から生還」した福島圭音の走塁には痺れた。快足なら誰もができるプレーじゃない。ランエンドヒットで坂本誠志郎が直球を確実に捉えたことも素晴らしかったし、相手バッテリーにプレッシャーをかけ続けた福島のリード、スタートと打球判断、一気に三塁まで蹴った一連の仕事に称賛は尽きない。

 今シーズンのレフトのスタメン争いを何度か書いているが、福島がこんな走塁をやれる選手なら、他の候補を一歩も二歩もリードできる。彼はさらに五回2死満塁の局面で粘り腰で押し出し四球を選び、これが記念すべき「プロ初打点」になった。守備でも果敢なプレーで気迫を前面に押し出すスタイルは見ていてワクワクする。

 痺れたのは、七回の木浪聖也もそうだった。1点を追う1死一、三塁からゲッツー態勢を敷いた相手の内野陣形、二遊間の動きを見て意図的に引っ張り込んだ二ゴロ…これは見応えがあった。ベンチもみんなこの渋い打撃を称えていたし、本人も一塁ベース上で手を叩いて納得顔だった。

 敗れても祝うべきものはある。もちろん、忘れてはいけない嶋村麟士朗のプロ初安打。心から「おめでとう」を言いたい。=敬称略=

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